ルナ様からのリクエスト
『ローレライ=クトゥグア。TOA世界=クトゥグアが幽閉されている惑星フォーマルハウト。ルークとアッシュが、ニャルラトテップの天敵・旧支配者クトゥグアの力を持つ者。二人は本体であるローレライを解放したら、幽閉地であるTOA世界を焼き滅ぼす気(最初ルークは反対だったが、同行者によって考えを変えた)。でも二人が手を出さずともニャルラトテップの干渉でTOA世界は滅び行く運命にある』













【最初は、誰もが嘘だと思った。信じる事が出来なかった。】 6 (お題提供:オセロ(終末世界20のお題から抜き出し))













 信じたくなかった。
 最初は、そう思ってた。
 俺と同じ顔の奴が、俺はおまえだって言うんだ。意味がわからねぇ!
 気持ち悪くて怖くて、どうしたらいいか分からないのに誰も何も教えてくれなかった。
 誰も俺を見てくれない。ならこっちを見るようにすればいいだ。そう思ってヴァン師匠を信じたんだ。
 なのに……。

「分かっただろ?」

 あいつの声が気色悪いぐらい優しく俺に話しかけてくる。

「おまえは、真実を見た。この星の上にいる忌々しいクズ共の本性をな」

 やめてくれ……。

「奴らはおまえに何か特になることをやったか? 何もしちゃいないだろうが。信じてもいなかったくせに、なぜ信じてやる義理がある? 奴らの考える絆なんてその程度のものだと気付かずに絆を求める奴らのなんと醜い!」

 そうだよ!
 知ってた!
 でも信じたかったんだ!
 信じあいたかったんだ!
 嘘じゃない!
 俺は、俺はただ……、俺を見てほしかった、認めてほしかっただけなのに!

『ようやく役に立ってくれたな、レプリカルーク』

 いやだ…。師匠…どうして……。

『ここにいると馬鹿な発言にイライラさせられる
『もう少し良いところもあると思ったのに…、私が馬鹿だった』
『変わってしまいましたのね……、記憶を失ってからあたなはまるで別人ですわ』
『こんなサイテーな奴は、ほっといたほうがいいです』
『あんまり幻滅させないでくれ』

 俺は、ただ師匠に言われたから……。
 そうすれば、俺は英雄になって、みんなが俺を認めてくれるって……。
 なのに、なのに……。

「馬鹿な奴だ」

 あいつが笑う。可哀そうだというふうに。

「おまえを求める本当の相手を間違えた。そうだな、最初は俺もイライラしたぜ。俺はこんなにもおまえを求めていたのに、おまえは俺を見ようともしなかった。ざまあみろ」

 誰か…、誰か助けてくれ。夢なら覚めてくれ…。

「夢じゃねぇ」

 あいつが俺の顔を包んだ。優しく、優しく。そして笑ってた。嬉しそうに。

「これは、現実だ。さあ…、愛しい俺の半身。俺にすべてを委ねろ。大丈夫。俺はおまえ、おまえは俺だ。おまえを拒む理由はない。ああ……、長かった。あのクズ共と同じ時間の中にいるのが辛かった…。俺もおまえも、あんなクズ共など足元にも及ばない世界のモノなのに……。くくくくっ」

 怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

「そんなに脅えるな。大丈夫だ、俺がいるだろ。さあ……」

 怖い……。
 あいつにキスされた。
 ああ……、なんだか目の前が真っ暗になって来た。

 暗闇の向こうに、炎の塊みたいなのが、暴れているのが見えた。

 思い出せ

 思い出したくない

 思い出せ

 思い出したくない

「忘れたか? おまえと俺の、本当の姿を」

 ああ…ああ……
 あれは、
 あれは、ずっとこの星の底で、ずっと……。待っていた。
 そう、待っていたんだ。
 だから、俺は……。
「そうだ、俺とおまえは…」


 
クトゥグア
 理性なき、炎の破壊神。

 この星の人間は、何も知らないでローレライと勝手に呼んで崇めている、すべてを焼き尽くす炎。
 遥か古代に宇宙の神々に敗北し、この星に封じ込められた。
 今から2千年以上も前に、ユリア・ジュエが救いの神だと勘違いして地の底からクトゥグアを召喚してしまった。
 知恵も理性もない破壊の炎を、ただの人間が扱えるわけがなくて、ユリアは自分の罪を追及されることを恐れて、クトゥグアの宿敵ニャルラトテップの知恵に頼った。
 よりにもよって人間とニャルラトテップにやられたのだ。
 自分を閉じ込めるこの星と、宿敵ニャルラトテップを必ずや焼き尽くしてやろうと、呪いの叫びをあげつづけた。
 理性がないから激情のまま蠢くだけのその神の力は、やがて大地を通じてアッシュに宿った。そしてその半分が今俺の中に……。
 やっと全部分かったから、ああそれもいいなぁなんて思った。
 灰も残らないほどの灼熱で、何もかもを焼き尽くす。メチャクチャ魅力的じゃねぇか……。
 なんかさっきまで怖くて仕方なかった俺が馬鹿みてぇ。

「ようやく思いだしたみたいだな」
「わりぃ……、遅くなっちまった…な…っ」

 今度こそ俺は、意識を失った。
 なんか急に緊張の糸が切れたっていうか、力が抜けちまった。
 あいつが俺を抱きとめて、また笑った。嬉しそうに。
 俺は、おまえが無くした半身。そして、おまえは…、クトゥグアの力を持つモノ。星の奥深くに閉じ込められた本体を解放することが、俺達の宿命。
 これから忙しくなりそうだなぁ。面倒くせぇけど、さっさと本体を引っ張り出さないとやばいっぽい。
 クトゥグアの宿敵ニャルラトテップが、この星を滅びる運命に導きやがったんだってさ。
 第七音素も、預言も、譜術も、全部、全部、ニャルラトテップが仕込んだことだったらしい。回復受けてたらそのうち体が腐っていくらしい。うわっ、キモっ。
 そんなとこ、さっさとおさらばしたい気持ち、今なら分かるぜアッシュ。俺、おまえと一緒に行く。
「当たり前だ。これはすでに決まってたことだからな」

 もっと早く、このことに気づいてたら……俺は。
 俺は。

 あんな奴らと対等になりたかったなんて、反吐が出ることを希望したりなんかしなかった!


 次に俺が目を覚ました時、見知らぬ部屋にいて、アッシュがやっと起きたか馬鹿がと軽く毒を吐かれ。
 それから他にも部屋に誰かいるのに気付いた。その顔を見てびっくりした。
 イオンだ。
 4人も。
 内ひとりは、今まで一緒にいたイオンで、ひとりはシンクで、残りの二人はイオンの被験者と、最近新たに作られたレプリカのフローリアンだって紹介された。
 こいつらまともじゃない。
 今の俺には、一目で分かった。
「今はここにいませんが、アリエッタも僕らの仲間です。クトゥグアの力を受け継ぐ御二方、よろしくお願いします」
 被験者のイオンがにっこりと笑った。
 アルエッタもかよ……。聞くところによると、イオン達についた邪神は、ハスターとその配下らしい。
 ハスターか……、やな予感しかしねー……。
 あいつって、自分が気に入らない奴と敵対している奴なら、下等生物(この場合オールドラント人を指す)にも平気で力を貸す奴じゃなかったか?
 そんなんだから結構、ていうかしょっちゅう同じ陣地(旧支配者)にも被害が出てたような……。そういえばクトゥルフと半端じゃないぐらい仲悪かったっけ?
「あいつ(ハスター)は読めん奴だが、少なくとも今は同じ目的がある。それにこいつらの本体は今はまだ遠くにある、俺達に及ばん」
「フフフ……」
 被験者のイオンが笑った。
 普通に笑っているが、どうやら図星らしい。
 身動きとれない時に、自殺行為だと思うぞ、ハスター……。
「まあ、それは僕もそう思うけど、“彼”にも色々と考えがあってこうなったのさ」
 俺の考えを読んだシンクが、やってられないと肩を竦めて言った。
 バイアクーヘ(とあとで聞いた)も、ハスターのやり方には呆れているらしい。
 シンクがバイアクーヘか……、疾風のシンクって二つ名があるくらいだし、ぴったりなんじゃないか。
「それよりさ…」
 俺はさっきから気になっていたことを呟いた。
 俺が気になっていたこと、それは。
「そっちのイオン……、なんか死んだ魚の目してないか?」
 イオンはイオンでも、俺が最初に会って、ユリアシティまで一緒にいたイオンの方だ。なんか目が死んでいる。さっきからずっとだんまりで不気味だ。何があった?
「心配ないですよ、まだ定着しきれていないだけですから」
 被験者のイオンが言うには、イオン(レプリカ)にイタクァの力を宿らせてはいたが、被験者イオンが姿を隠している間、ずっと封印していてついさっきそれを解いたらしい。そのせいで体にうまく力が馴染んでいないらしい。時間が経てば大丈夫らしい。
「……」
 なんかフローリアンが俺のことをじっと見てくる。
 ツァールってあれだろ? ロイガーの双子の兄弟で……。物理的に繋がってるんだっけ?
 そんなこと考えてたら、フローリアンに手を掴まれた。
「好きっ」
 おいおい、いきなりなんだ!
 そんな邪神が宿ってるとは思わない純粋無垢な顔で告白かよ。
 そしたらアッシュが俺を掴んでフローリアンから引き離した。
 アッシュがぎろりと睨むと、フローリアンは別に怖がる様子もなく、ただ残念そうに俯いた。
「おまえも隙ばっか見せてんじゃねぇ。喰われるぞ」
 フローリアンの好きは、食欲的な意味での好きだったらしい。油断ならねぇな……。
 自分がなんなのか思いだしてから、他にも色々思い出したけど、喰う喰われるは、俺達の間じゃ日常茶飯事。同じ旧支配者って呼ばれてる神が相手でも油断ならない。こっちは、本体の半分しかないことを考えれば襲ってくれと誘ってるようなもんなだろう。
「だめですよ、フローリアン。彼らは協力者なんですから、食べちゃだめですよ?」
「美味しそうなのに…」
「それは確かにそうですが…」
「燃やしてやろうか?」
「いい加減、本題に移ったらどうなのさ! クトゥグアのあんた達が一番分かってるでしょ、あんまり時間が残ってないこと」
 イライラしたシンクが睨みつけるようこっちを見て言った。
 シンクの言うとおりだ。確かに時間がない。
 ニャルラトテップの奴のせいでこのオールドラントは、限界寸前だ。壊れる前にさっさとおさらばしないマジでやばいかも。
 完全に死ぬことはないだろうけど、このまま閉じ込められっぱなしで星の上にいる連中と心中するなんてまっぴらだ。
「落ち着け! ここで議論してても何も終わらねぇんだ! おい、ハスターの代理、協力するって言ったからには最後まで付き合ってもらうからな?」
「もちろんです」
 被験者のイオンが微笑んで答えた。
「では、シンク。転移の方をよろしくお願いします」
「……なんで僕が…」
「バイアクーヘは、乗り物なんですから文句言わずやることをやってください」
 被験者イオンが威圧感のある笑顔でそう命じると、シンクは、ぶつぶつと、『なんでバイアクーヘを僕にしたのさ』と恨めしそうに言いつつ、この場にいる全員をその力で別の場所へ転移させた。




***




 転移先は、アグゼリュスで見たセフィロトとよく似た場所だった。
 おそらく別の場所にあるセフィロトだ。
 そこにアリエッタがいた。
「待ってたです…」
「アリエッタ、待たせましたね。それで? 見つかったのですか?」
 被験者のイオンが歩み寄りながら聞くと、アリエッタは、頷いて上を指差した。
 あれは…、まさか……。
「なあ、アッシュ……、俺の見間違いじゃないよな?」
「“あれ”が見えねぇんなら、てめぇの目が腐れ落ちてる」
 アッシュと二人して愕然とした。
 転移先で見たそれは、あれだ。
 俺達の本体を星の内部に縛りつけている楔のひとつだったんだ。
 普通の人間には見えないようにされているが、クトゥグア、そしてハスターその他もろもろの力を持っている俺達には丸見えだ。
 ユリアは、クトゥグアの封印を大地を支える柱に隠したのか。
「おそらくユリアは、クトゥグアの発する熱を外郭大地を支える動力源に利用したみたいですね。譜業機関でうまく熱を隠していますが、二千年の月日で、ほらあの通り、あちこち熱さで溶けて歪んじゃってますよ」
 言われてみれば確かに。パッセージリングの周りにある譜業の部品は、歪んで、パイプからは高温の蒸気がブスブスと漏れている。
「……よく今日までもったなって褒めるべきか?」
「褒め言葉なんざ必要ない」
 俺の呟きにアッシュが吐き捨てるように言った。
 さっさと壊すべくだと、アッシュが封印に手をかざした。

 地震が起こった。
 大地がまるで咆哮をあげるようにものすごい震えた。
 外郭大地が支える力の循環を失って降下するのが分かった。
 降下した大地に今まで大地を支える動力として利用されていた高熱が駆け巡る。
 火山が噴火し、気温が上がり、割れた大地から間欠泉が吹きあげた。
 クトゥグアだ。
 この星の内部に閉じ込められていた神が喜んでいるんだ。
 でも、同時に早く全部の楔を外せと叫んでもいるみたいだ。
 ああ、分かってる……。
 だってあなた(クトゥグア)は、俺とアッシュなんだから……。
 早く、早く自由になりたい。
 そして、生まれ育った宇宙に帰りたい。
 封印は、無限じゃない。いつか必ず解けてしまうもんだ。
 ユリアが生きているうちに解けなかったのが口惜しいっちゃ、口惜しい。
 まあ、いいか、復讐はいつかやればいい。俺達には、人間なんかと違って時間は無限にあるんだからな。
 ついでに時間を超えることだってできる。
 死んだからって、安心すんじゃねぇぞ?


 封印をひとつ破壊して、セフィロトを後にした俺達を待っていたのは、俺達が憎んで止まない“アイツ”が率いる怪物共の集団だった。
 人の姿をとった“アイツ”がニヤニヤ笑ってやがる。腹が立つ!
 俺は、アッシュと同じタイミングで剣を抜くと、そのまま二人で“アイツ”に斬りかかった。
 戦いは、まだ始まったばかりだ。
















あとがき

 急展開ですみません。
 この後の展開は、封印が一部解けたクトゥグアによる天災がオールドラン全土に及び、前回アッシュに狂わされた方々とかを出演させていきたいと考えています。

 ニャルが時空を超えられるなら、クトゥグアだってできると思ったので、赤毛達は目的達成の後はユリアに復讐しに行くでしょう。








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