ルナ様からのリクエスト
『ローレライ=クトゥグア。TOA世界=クトゥグアが幽閉されている惑星フォーマルハウト。ルークとアッシュが、ニャルラトテップの天敵・旧支配者クトゥグアの力を持つ者。二人は本体であるローレライを解放したら、幽閉地であるTOA世界を焼き滅ぼす気(最初ルークは反対だったが、同行者によって考えを変えた)。でも二人が手を出さずともニャルラトテップの干渉でTOA世界は滅び行く運命にある』
















(※インゴベルトは、とことん愚か者という感じを目指してみました)








【最初は、誰もが嘘だと思った。信じる事が出来なかった。】 2 (お題提供:オセロ(終末世界20のお題から抜き出し))






















「まったく、何をそこまで…」
 インゴベルトは、自室の椅子に腰かけ頬杖をつきながら呟いた。
 ルークが生まれた矢先、クリムゾンが精神を病んでしまった。
 ブツブツと独り言を呟き、げっそりとやつれ、不眠症になり睡眠薬と精神安定剤を服用してどうにか職務をこなしているが、以前に比べて能率は下がった。
 インゴベルトは、クリムゾンの仕事を減らし少しでも負担を減らしてやろうと手回ししたが、数年経っても回復の兆しは見られないという報告を受け(しかも悪化している)、眉間を押さえた。
 直接クリムゾンに会い、話をしてみたことがあったのだが。
 息子が恐ろしいのだと。目の下に濃いクマを作ったクリムゾンが、震える声でそう言ったのだ。
 インゴベルトにしてみれば、ルークは、17歳になったらアグゼリュスで死なせ、開戦の理由にするためだけの道具に過ぎなかったため、クリムゾンの気持ちを全く理解できなかった。
 だがルークが持って生まれた力を思えば、恐れる理由も分からなくは…ない。
 妹のシュザンヌの体を焼いたあの炎の力を、ルークは自在に操ることができる。すでに何人もその犠牲になっている。
 今から1ヶ月前、アグゼリュスに送る時までの間幽閉してしまえばいいと思って命令を下す直前、腹心である肌の黒い男がこう言った。
「あの者の力をこのまま捨ててしまうには、勿体ないと思いませぬか。未曽有の繁栄をこの国のものとするために利用する価値は十分ございましょう」
 片膝をつき、頭を下げたままそう進言して来た見慣れない男の姿に、インゴベルトは『はて?』っと一瞬戸惑ったが、顔をまともに見ていない腹心など幾らでも居ると思いなおし、男の言葉の内容を頭の中で巡らせ、それは名案だと顔を緩ませた。
 それからてきぱきと、ルークをベルゲンドの研究所に通わせ、その力を利用しようとするインゴベルトを、陰で黒い肌の男が嘲るように笑っていたのだが、誰も男のことに気づくことはなかった。

「陛下!」

 インゴベルトが物思いにふけていたとき、腹心の一人が駆け込んできて緊急の知らせをインゴベルトに報告した。
「ルーク・フォン・ファブレ様が……」

 その時何が起こったのかは、当事者達ですら分からないのだという。
 実験のせいなのか、ルークは昏睡状態に陥り、目を覚まさなくなった。
 凶暴だったルークが大人しくなって扱いやすくなったと、インゴベルトはこの件を軽視したが、そんなインゴベルトに対し怒りを覚えたのかは不明だが、ルークは目を覚ました。
 一度昏睡したせいか、ルークは、以前よりも大人しくなり、何事にも無反応な子供になった。
 その様はまるで人形のようだと言われるほど、反応が鈍く、周囲に対して無関心だった。
 変わらず研究所通いが続いていたが、一向に研究の成果をあげることができず、余計な費用ばかりが積った。
『まるで鍵でもかけられているようだ』
 っと、研究者の一人が零したそうだが、それでは意味がない。
 所詮は、預言通りに世の中を動かすための生贄に過ぎなかったのだとインゴベルトが身勝手に自己解決させた矢先に、別の面倒事が舞い込んできた。
 ナタリアの将来についてだ。
 ナタリアは、どう見てもキムラスカ王家の血を引いているとは思えない容姿をしていたがため、キムラスカ王家での立場はかなり危ういものだった。とうのナタリアも、そのことを気にし、日々第一王女としての立場に恥じぬよう努力しているようだったが、容姿を重要視する傾向が未だに強いキムラスカ王家だ、それだけでは周りが認めようとしない。
 娘を溺愛するインゴベルトは、周囲を納得させるために思考を巡らせ、そして辿り着いたもっとも良い案が…。

 現在もっともキムラスカ王に据えるにふさわしい容姿を持った、ルーク・フォン・ファブレを、ナタリアの婚約の婚約相手とするものだった。

 …しかしその考えに至ったインゴベルトは、大いに悩んだ。
 むろん理由は、ルークがアグゼリュスで死ななければいけないからだ。
 17で殺す生贄を、成人の儀を迎えたと同時にナタリアの夫となる人材に置く…。できるわけがない。
 愛する愛娘のナタリアには悪いが、アグゼリュスでルークが死んだら別の人間と婚約を結んでもらうしかない。もちろん真の婚約者は、用意はしておく。ナタリアも王女だ。国のためと納得してくれるだろうとインゴベルトは思った。
 そうと決まればあとは行動に移すのみ。インゴベルトは、テキパキと準備を整え、ナタリアを呼び、ルークとの婚約の話を切り出した。
 ルークのことをほとんど知らない(知らせていない)ナタリアは、すぐにでも相手に会ってみたいと婚約についてはすぐに納得してくれたようだ。まだ見ぬ将来の夫となる相手を思い目を輝かせるナタリアに、インゴベルトは微笑ましそうに笑みを浮かべた。

 しかしインゴベルトは知る由もない。

 インゴベルトのこの策が、後々の災厄の決定打になる事柄の一つに繋がってしまうことになることを。

 ナタリアは、ルークにすぐにでも会いたいとそわそわし、ついにある日、城を抜け出してファブレ侯爵の屋敷に行ってしまった。それと同時にルークもいなくなった。
 ナタリアを守らねばんらないのに見失ってしまった兵達の必死の捜索により、ナタリアは、ルークと共に、港で発見され、その時にどのようなやり取りがあったのか、ナタリアは、ルークと将来の約束をしあったそうだ。
 以来ナタリアは、しょっちゅう屋敷に押しかけては、ルークと接しようとするようになり、インゴベルトは愛する娘が誰かに好意を寄せるほどに成長したのだというのを喜ばしく思うと同時に、ルークが17歳で死ななければならない運命にあることを知らない娘がその時が来た時、耐えることができるだろうかという不安を抱いた。
 ルークが死ねば、実質キムラスカの王位継承者は、ナタリアと、今は隠してある本当の婚約者だけとなる。ナタリアが心身を病めば、更に王位継承者が少なくなる。政権を狙う輩が今のところ大人しくしていても、いつどうなるかは、誰にも分からない。こればかりは、その時が来なければ分からない。

「(まあいい、預言通り事が進めば全てが上手くまとまるだろう)」

 インゴベルトは、愚かにもそのように考えをまとめてしまった。
 運命は…、いや、この星に生きている人間を含めた脆弱な生命達には推し量ることなど到底できない強大な力を持つ者達が動きだす時、ある意味で全てが上手くまとまるだろうが…。しかし、そこに弱者はいない。そこに存在することすら許されないのだということを、人間の王が知る由もなかった。
 そして、あたかも愚かな人間の王を嘲笑うように…。

 クスクスクス……

「っ!?」

 どこからともなく聞こえた微かな笑い声に、インゴベルトは驚いて辺りを見回した。
 気のせいかと思い、流れてしまった嫌な汗を手で拭う。
 その時。

『インゴベルト国王陛下。ルーク様は、もうすぐ何者かの手でいなくなる。しかし、もう一人のルークが戻ってくる』

 いつか聞いたことのある声が聞こえたことに、心臓が止まるかと思うほど驚き、部屋の扉の方を見ると、わずかに開いた扉の外側から誰かがこちらを見ていて、インゴベルトと目が合うと、怪しく目を細めて扉を閉めてしまった。
 その直後、緊急の報告を伝えに来た家臣が扉を叩くことなく部屋に飛び込んできて、次に彼が口にした言葉の内容にインゴベルトは開いた口が閉まらなくなった。

 ルーク・フォン・ファブレが、何者かに拉致された。

 すぐにインゴベルトは、ルークの捜索を命じた。
 そしてファブレ侯爵の別荘であるコーラル城にてルークが発見され、無事に保護されて屋敷に戻された。
 一時はどうなるかと思い寿命が減る思いがしたインゴベルトは、未曽有の繁栄のための生贄が見つかったことに安堵するあまり、ルークが拉致されたということを知る直前に聞いた、謎の声のことをすっかり忘れるのだった。

 屋敷に連れ戻されたルークの髪は、明るい朱色で、髪の先端に近づくほどに色が薄くなり、先端が金色という、拉致される前のルークとは違う色をしていた。

 戻って来たルークは、まるで赤ん坊そのもので、しかも酷く泣く。
 何か得体のしれない物に脅えているようだと誰かが零していた。
 されが連日続いたある日を境に、ルークはそこまで泣かなくなったらしい。
 話よると、夜中に金髪の使用人が泣き喚くルークを大人しくさせるために部屋を訪れた時、部屋の中に幽霊のような白い物体がルークにまとわりついているのを目撃し、それを慌てて持っていた刃で切り捨てたのだそうだ。それ以来ルークは、酷く泣くことはなくなった。
 自分を脅かしていたものを退治してくれたからか、その金髪の使用人にルークはよく懐くようになったらしい。
 なんにしても、都合よく事が運んでいることに、インゴベルトは口元を緩ませたのだった。

















あとがき

 ルーク(レプリカ)がキムラスカに戻された後、メチャクチャ泣いてたのは、アッシュのせいです。
 金髪の使用人=ガイが目撃した白い物体は、アッシュの幽体みたいな?
 ここでは書かれてませんが、切られたので本体のアッシュ怪我してます。(ガイに復讐フラグ)
 何やってたかというと、自分の半身に自分なりに教育を施そうとしてたんですが、拒否られてます。
 リクエストでは、実験の最中にニャルの介入で力を半分と取られてレプリカに移されたということだったので、本当はその状況を詳しく書こうと思ってたのですが、難しかったしダラダラとなったのでやめました。力を取られた反動で昏睡状態になったということにしました。

 いやしかし何も知らない愚か者を突き落とすのが楽しくて仕方ない。
 インゴベルトをこの後どうしようか今から楽しみ…v(危ないって)
 ちなみにインゴベルトに話しかけてた奴は、言わずと知れたクトゥグアの宿敵(?)ニャル様です。
 ニャルは、クトゥグアが苦手ですが、今回の話ではあちこちで活躍して、何気にアッシュ達の手助け的なことをやる予定。







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