これ→『竜騎士(ドラグーン)の御子』のおまけ話。
 DOD世界へ帰還したルークとカイム達が、Aエンドルート(最初にプレイすると必ず行くルート)を迎えた場合。
 DOD2のネタばれや、あまりいい終わり方をしていませんので注意。

 IFのみんなが幸せしよう考案エンド→『竜騎士(ドラグーン)の幸せ』






(※若干、腐向けな表現有りますが、あくまで健全なつまりです。カイム×ルークっぽいですが、カイム→←アンヘルのつもりです)





『竜騎士(ドラグーン)の最後の物語』



























 あの恐ろしい体験は、夢だったんじゃないかと、ルークは思った。
 恐ろしい体験とは、あの白い赤ん坊のような敵によって世界が危機に瀕した時の出来ごとのことだ。
 オールドラントという異世界から戻ってきてみると、あの白い敵も、あの濁った空も元通りに戻っていた。
 だからといって平和になったわけじゃない。
 白い敵がいなくなったが、代わりに司祭のマナが復活していた。
 つまり時間が少し巻き戻されていたのだ。
 不思議なことに記憶も引き継いだ状態での再スタートであった。
 さすがにあの白い敵はないわーっということで、今度はマナを殺さないようにがんばろう!っと、再びルーク達は戦場に舞い戻った。
 白い敵を相手にしていた分だけ経験値が加算され、尋常じゃなく強くなっていたこともあり、難無く事を果たせるかと思いきや……。

 今度は、封印の女神、カイムの妹のフリアエが死んでしまった。

 ああ……、なんて世界は残酷で理不尽なんだ。
 何も犠牲にしないで済むならそれが一番だったのに。
 封印が消えてしまったために、再生の卵が出現してしまった。
 世界は白い敵が現れた時とは別の意味で、混沌としたものになってしまった。
 アンヘルは、再生の卵を『断頭台』だと言っていた。
 ドラゴンが言うのだからまず間違いなく嫌な予感しかしない。
 再生の卵を消すにはどうするか?
 やるべきことはただ一つ、帝国をどうにかしたあと、封印の再構築をすることだ。
 今度は、マナを倒しても殺さない。
 神に操られた少女を、カイムは許す気はない。
 聞くところによると、どうやらカイムの国が滅ぶきっかけになったドラゴンを使役していたのが帝国だったらしい。つまりマナは、彼の両親の仇であり、妹を死に追いやった仇であり、なにより彼の人生全てを狂わせた憎悪の対象だったのだ。
 死など生ぬるい。生かして罪を背負わせるのだ。
 復讐のために修羅の道に堕ちたカイムの戦いは、これで終わると思われた。
 だが世界は、更に犠牲を強いた。
 マナが力を失いただの少女になり下がった後、アンヘルが新しい封印になると申し出たのだ。
 精神力・体力共に、人間の比ではないからだと。
 アンヘルは、カイムただ一人のために世界を救うことを選んでしまったのだ。
 封印の苦痛に悶えるアンヘルに、カイムは初めて涙を見せた。
 ルークが知る限り、どんな時でも涙を流すことがなかった、あのカイムが今、アンヘルを失う悲しみと、アンヘルの覚悟が意味することを理解して泣いたのだ。
『お主の涙…、初めて見たな』
 アンヘルが笑った。壮絶な痛みを感じているはずなのに、その声も、表情もとても穏やかだ。
 アンヘルとカイムの想いは、お互いの心に伝わった。あまりにも切なく、悲しくて、けれど……この上ない幸福感。
『さらばだ。馬鹿者……』
 最後にアンヘルらしい言葉を残して、アンヘルは光となって消えた。
 残されたカイムは、アンヘルの消えた空を見上げ、涙を零れ落としながら、その場に崩れ落ちた。

「神よ…。それでも、生きろというのですか……」

 ヴェルドレが、アンヘルの消えた空を眺めてそう呟いた。
 生き続けること。
 復讐のため。愛する人のため。罪を背負うため……。
 様々な理由で人間は、それでも生き続けるだろう。
 それが、神の造物でありながら、神の意志に従わない失敗作の烙印を押された人間達に、神が背負わせた業。
 これから先も、ずっと。

 そして、竜騎士の物語は、一旦ここで終わり。
 傲慢なる神が目論んだ滅びの運命は、十数年後に再び世界にふりかかり、孤独な竜騎士の物語が新たに始まる。




***




 ルークは、走っていた。
 アンヘルが封印になったあの日から十五年が経とうとしていた。
 世界は、崩壊から立ち直りつつあったが……。
 しかし世界は、変わらない。
 ルークが知らせを受けたのは、ほんの数日前だった。
 帝国を打ち倒し、アンヘルが最終封印となったあの日に、戦場という結びつきを失ったルークは、カイムと行動する理由を失い、今はひとりであちこちを放浪していた。
 自らの手で故郷を滅ぼし、カイムに出会うまでの間、赤い悪鬼と呼ばれるほどの修羅として生きてきたルークは、俗世で生きようとは思わなかった。
 だから世間で何が起こっているのか分からなかった。
 だから遅れてしまった。
 ヴェルドレが、アンヘルをより強い力で押さえつけて更なる苦痛を与えようとしていることを。
 アンヘルは、カイムのために最終封印になる決意をした。
 世界のためなんかじゃない。たったひとりの人間を想う気持ちが、アンヘルの覚悟となったのだ。
 ヴェルドレは、アンヘルが封印の苦痛で暴走するのを恐れたのだ。
 世界のためだと言って。
 アンヘルの想いを踏みにじった。
 ルークが駆け付けた時、現場は血生臭い匂いで充満していた。
 久しぶりの光景だった。死体で足の踏み場がないこの光景は。
 血に濡れた大振りの剣が、腰を抜かしたヴェルドレに向けられている。
 剣を握る男の姿を見て、ルークは、涙がこぼれそうになった。
 ヴェルドレがこちらに気付いて助けを求めてきた。
 けれど、ルークは動かなかった。
 ルークは、喜びで緩んでいた顔を無にした。
 ルークの心に沸き上がったのは、これ以上ない失望だった。
 それはカイムも同感のようだ。

 誰が、助けてやるものか。

 そう言い捨てて、自分も剣を抜いた。ルークに助けを請うヴェルドレの背後にカイムが近寄る。
 後ろからカイムが、そしてルークは、前から、地べたを這うヴェルドレに向かって剣を振り下ろした。
 息の合った動きに、ルークは再び懐かしさを感じて涙を浮かべた。





 ………結局、間に合わなかった。

 アンヘルは、新しい直轄区という封印によってすべての自由を奪われてしまった。
 カイムとルークは、人里離れた、枯れた森の中で座りこんでいた。
 かける言葉が見つからず、ルークは、時々カイムを横目でちらりちらりと見ながら様子を窺うことしかできなかった。
 カイムは、動かない。長めの前髪で隠れた表情はよく分からないが、良い顔はしていないのは確かだ。
 いつのまにか隻眼になってはいたが、ヴェルドレ達を切り捨てたあの剣さばきからは、隻眼のハンデも、四十代近い年齢も感じさせなかった。
 契約者としての力は、いまだ健在らしい。
 この十五年間の間、彼はどんな生活を送っていたのだろうか。
 いままでずっと人間と関わらずに生活していたルークが言えた義理ではないのだが、少し気になった。
 だが聞くことはできない。
 アンヘルの封印が完全になるのを防げなかったのは、自分にも責任があると、ルークは感じているからだ。
 だからといって謝罪しても意味がない。
 だからといって、このままじっとしていてもどうしようもない。
 懐かしさと、悲しみと、責任感がグチャグチャに混ざった感情に耐えられなくなってきたルークは、カイムの傍から離れようと立ち上がろうとした。
 その時、ぐんっと腕を引かれた。
 驚いてみると、カイムががっちりルークの腕を掴んでいた。
 カイムは、こちらを見ていないが、引き戻そうとするようにルークの腕を掴む手に力が籠っている。
「ーーー、か、カイム…っ!」
 口がうまく回らずなんとか久しぶりに彼の名を呼んだ拍子に、ルークは、足をすべらしてしまった。
 そしてそのままカイムの方に倒れると、カイムが倒れてきたルークの体を受けとめた。そしてそのままものすごい力で抱きしめる。
 ルークは、思わず苦しさに呻き声を漏らしたが、カイムの体が微かに震えていることに気が付き、硬直した。
 ルークの脳裏に、十五年前、アンヘルのために涙を零したカイムの姿が過った。
「泣いてるのか…、カイム?」
「……」
 声がないから答えることができないカイムに、疑問を投げかけたって答えが返ってくるわけではないのに。
 ルークは、カイムの背中に腕をまわした。
 そうして二人は、しばらくの間、言葉もなく、お互いを抱きしめた。
 どれくらいそうしいただろうか。
 二人は、言葉もなくお互いの体を離して、言葉もなくお互い違う方向へ足を踏み出した。
 二度目の別れは、慰めと、新しい戦いの始まり。

 きっと……、心のどこかで予感していたんだと、ルークは、想う。

 更に三年後の再会は、カイムの……、いや竜騎士とドラゴンの、最後の物語だった。
 皮肉にもあの帝国の指導者だったマナの手で、アンヘルの封印が解かれた。
 直轄区の封印と、最終封印のせいで、いくらドラゴンといってもついに気が狂ってしまったアンヘルが、世界中を炎で焼き滅ぼそうとした。
 それを止めたのは、マナと行動を共にしていた、ノウェという竜騎士と、レグナという蒼いドラゴンだった。
 アンヘルを殺すことは、カイムの死を意味した。けれど、もうアンヘルには、カイムのことが分からなくなっていた。
 アンヘルを救ういには、もう、死という安らぎを与えてやることしかできない。
 封印の力が合わさって絶大な力を振るえるようになったアンヘル。
 ノウェとレグナは、相討ちになりそうになりながら、どうにかアンヘルを倒すことに成功したのだった。
 赤きドラゴンは、とある場所に落下した。
 皮肉にもそこは、かつてカイムと出会い、契約を結んだ女神の城だった。城内に堕ちたアンヘルは、真紅の体を自分の血で濡らし、ゆっくりと頭をもたげた。
 その目線の先には、カイムが立っていた。
 ルークは、覚えている。
 あのアンヘルの表情は、最終封印になるとアンヘルが決意して、カイムに想いを告げた時のそれと同じだ。
 できれば、こんな形で見たくなかった。
 ルークは、涙でぼやける目を腕で拭って、最後までその目に焼き付けるようとカイム達から顔を背けなかった。
 すべての苦しみから解放されたアンヘルの体が、炎で包まれていく。
 それと共に、カイムの体からも炎が溢れ始めた。
 契約を結んだ人間と魔物の結末。それはどちらかが死ぬと、もう一方も死ぬことだ。
 カイムとアンヘルは、二度と離ればなれになることはないだろう。
 ひとつになった二つの魂は、美しい炎と共にこの世界から旅立っていった。

「またな……。カイム…、アンヘル……」

 最終封印が解けて、壊れていく空の下で、ルークは、先に旅立っていった大切な仲間を想い続けた。










あとがき

 リクエストを書きあげた時に、どうしてもおまけを書きたくなったので、つい書いてしまいました。
 これは、オールドラントから帰還したら、Aエンドルートを辿ったという流れでのおまけです。
 Aエンドだと、どうしてもあの終わり方が悲しくて、でも愛おしくて……、でもルークは、そんなカイムとアンヘルの物語を見守ることしかできなかった。
 ちなみにDOD2では、ルークは、ノウェ達に協力してません。














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