ルナ様からのリクエスト
『ドラッグオンドラグーン(DOD)の世界で生まれ育ったルークが、オールドランドに飛ばされる話。カイムとアンヘル達が連れ戻しに来るが…。
 DOD世界は、Dエンドルート(巨大赤ん坊大量発生)真っ最中。』






(※なんとな〜く、カイム×ルーク←イオンっぽい)











『竜騎士(ドラグーン)の御子』






















 えーと、なんでこうなったんだっけ?

 ルークは、ぼんやりと宙を見上げて今更そんなことを思った。

「てめぇは、俺の劣化レプリカなんだよ!」

 レプリカ? 何それ? 食えるの? 関係ないし。
 自分の顔そっくりの赤毛の男がそう叫んでいるが、ルークは他人事のように聞き流した。
 そんなルークの態度にカッとなったらしい赤毛の男が、剣を向けてきたので、ルークは男の斬撃をひらりひらりとよけながら考え事をしていた。

 ルークは、この世界…オールドラントの者ではない。

 天空に、ドラゴンが翼をはばたかせる、違う世界の住人だった。
 なのにオールドラントに迷い込むことになってしまった。
 気が付くとファブレ公爵の屋敷で寝かされていて、この世界にいるルークと同一視されて、今に至る。
 自分がこの世界のルークではないことを訴え続けたが、記憶喪失ということにされ聞き入れてもらえず、ルークは早々に諦めてしまった。何事も諦めが肝心だと言うのを、もといた世界で存分に学んでいたからである。
 もともと辺境の村にある独自の宗教の御子をやらされており、自分の意志が押さえつけられるのが当たり前だった。
 ところがある日、帝国が現れて魔物の数が増え、不穏な空気が辺境にまで及びだすと、村人達はまず宗教の偶像にされているルークを疑った。そしてついに暴徒と化した村人達に殺されることになった。
 散々自分を偶像として祀っていたくせに、悪いことが起こると手のひらをかえした自分の周囲は、それまで心を閉ざしていたルークに、一瞬でも死にたくないというわずかな自我を芽生えさせた。
 気がつけば周りは血の海で、肉塊になった人間達が転がっていたところまでは覚えていた。
 それからルークは、あちこちをさ迷った。目の前に立ちはだかる者は、誰であろうと殺した。ただ己の肉体が持つ生存本能に従い、ただ生きているだけだった。
 ルークは、そのうち赤い悪鬼と噂されるようなった。このままでは、ルークは懸賞金目当ての賞金稼ぎや帝国兵にでも殺されていたかもしれない。
 そんな時に出会ったのが、レッドドラゴン(アンヘル)と契約したカイムだった。赤い悪鬼の噂を聞いてきたらしい。
 帝国軍への復讐のために力を貸せと言われた。何もかもどうでもよくなっていたルークは、ただ頷いて彼に従った。
 途中で出会った他の契約者達とも協力しあい、やがて狂気の中に確かな絆を見つけていった。不思議なことに狂気に塗れた状況下で、ルークは徐々に心を育んでいったのだ。いつのまにか喜怒哀楽を身につけ、血生臭い戦場で狂戦士のカイムと冷酷無比のアンヘルと笑いあうような仲になっていた。
 やがて、帝国を追い詰め、ついに司祭であるマナを倒した。
 だが……、それは始まりに過ぎなかった。
 マナが死んだことで世界の何かが音を立てて壊れてしまったらしく、空は濁り、赤ん坊のような得体のしれない何かが現れた。
 マナの死が、世界を支配していた神を消滅させ、それまであった均衡を崩したのだろうか。それともこれこそが真の世界の姿だったのだろうか。
 原因をあげても意味がない。
 縋るものも、もう何もない。
 けれど足を止めるわけにはいかない。
 いや、とめられなかった。
 殺戮に身を焦がし続けた修羅は、最後の瞬間まで修羅でありつづけるより他なかったのだ。
 正体不明の敵を前にしても剣を下ろそうとしないカイムに、ルークは寄り添い続けた。
 ただ最後まで共にありたいと願った。初めて生きていることに感謝した瞬間だった。
 敵に包囲され、もはやこれまでという状況で、カイムがそんなルークの切なる願いに応えるように背中を合わせてくれたことを、ルークは永遠に忘れまいと誓い、目を閉じた。
 ふとその時、脳裏に過る、どこで覚えたのかも忘れてしまった、歌の節。それを無意識に口ずさんでいた。
 気がつくと敵は消え失せており、カイム達が信じられないものを見る目でルークを見ていた。
 何が起こったのか分からずルークが混乱していると、ヴェルドレに肩を掴まれて。

「そなたこそ、この世界を救う希望だったのか!!!!」

 ……世界を救いたいわけじゃないんだけどな。喜びに浸るヴェルドレに対して、ルークが心の中でそう思った。
 どうやらルークには、あの正体不明の赤ん坊を消し去る力があるということが分かった。
 理由は不明だが、とにかく今はそれしか対抗手段がないので、敵の本体をどうにかしてから考えようということになった。もうほんと時間がなさそうだったからだ。
 その矢先に事件が起こった。
 腹をとんでもなく巨大に膨らませた、敵の本体と思われる巨大な女は、ルークを警戒してか、空間を歪めたのである。
 レッドドラゴンこと、アンヘルがこれを回避しようとしたが、回避しきれず、ルークは振り落とされ、歪んだ空間の中に吸い込まれてしまった。
 吸い込まれていく最中、カイムが声が出ない喉で何かを叫ぼうとしながら必死に手を伸ばそうとする姿を、ルークは見た。意識はそこで途絶え、気がつくとオールドラントのファブレ公爵家にいた。
 そしてあれやこれやあって、最初に戻る。

「(カイムだったら、出会った瞬間こいつら切り捨ててるだろうなぁ…)」

 そんなことをルークは、ぼんやりと考えた。
 ルークは、この世界の住人ではないが、無学ではない。
 一応自分が置かれた立場は理解しているので、ユリアシティに来るまでの間に出会った者達の行動や言動が、おかしいことぐらいは分かる。
 普通、真昼間に暗殺しに来るか?とか。
 殺意を抱いている親友ってどうなの?とか。
 上司そっちのけで媚を売ってくる守護役は?っとか。
 最高指導者の言うこと聞かない部下だらけのダアト?とか。
 和平の使者の割には全然その気が感じられない使者?とか。
 出会って早々約束のことばかりこだわり、父親の王様がダメだって言ってるのに聞かずに飛び出してきた王女様でいいのか?とか
 そしてルークを複製品呼ばわりしたあげく、自称本物のルークだというそっくりさん。
 それ以前に全然こっちの話しを聞かない彼ら。
 それ以上に、預言に従うしか能がないとしか思えない世の中。自分が生まれ育ち、そして自分の手で滅ぼした、あの閉鎖的な村が重なる。
 嫌な思い出が蘇り、ルークはすっかり気が滅入っていた。
 あの理不尽(弱肉強食的な意味で)で血生臭くて、狂気に染まった元の世界が恋しいと思った。
 しかし、それ以上に…。
「(カイムが恋しい…)」
 ルークは、あの殺戮の騎士の姿を脳裏に浮かべ、寂しいと思いぼんやりする。
「(あ、そういえばカイムって元どこかの国の王子だったっけ?)」
 そんなことも思い出しつつ、ナタリアとアッシュをちら見する。
「(カイムの方がよっぽどいいなぁ…。カリスマ性というか、連合軍の人達からもなんだかんだで慕われてたし)」
 うんうんと、人生が捻じり曲がるような不幸に見舞われなければカイムの方がよっぽど王族として出来てたと、ひとりで納得していると……。

『…−ク!』

「えっ?」

 聞き覚えのある、声。

『ルーク! どこにいる、返事をせぬか!!』

「アンヘル!」
「な、なんだ!?」
 ユリアシティを覆う天井が大きく歪み、見覚えのある赤いドラゴンがそこから飛び出してきた。その背には、ルークが求めた相手が跨っている。
 アンヘルが乱暴にユリアシティの広間に着地しようとしたので、アッシュ達は慌てて逃げた。
 ルークはその場から動かず、目の前で胴体着陸したアンヘルから落ちないよう、しがみつくカイムの姿に(アンヘルの胴体着陸のせいで若干顎とかが痛そうだった)、くしゃりと顔をゆがませた。
「…カイム!」
 感極まったルークが駆け寄ると、カイムがアンヘルから飛び降り、駆けてきたルークの体を受けとめた。
「カイム! カイムだ…!」
 鎧と服にしみ込んだ乾いた血の匂いが、酷く懐かしく思え、ルークはぎゅっと抱きついて涙を零した。
 頭上でカイムが少し戸惑う気配があったが、くしゃりと頭をなでられ、それだけでカイムが自分を心配してここにきてくれたのだと分かり、ルークは嬉しくて更に泣いた。

「これは、いったいどういうこと!?
「まったく事態が飲めないのですが…」
「ルーク! いったいどういうことなんだ!?」
「なにこのでっかい怪獣〜、すっごい怖いんだけどぉ!?」

『地べたにうるさいコバエがおるわ』

 アンヘルが口を聞いたことにも驚きだったようだが、それ以上にコバエ呼ばわりされたことに、彼らは逆上した。
 アンヘルは、ふんっと馬鹿にしたように鼻息を吐くと、いまだ抱きしめあっているカイムとルークを見た。
 アンヘルは、溜息をこらえつつ。
『お主ら、時間がないのだぞ! いちゃつくのはあとにせぬか!』
「あ…、アンヘル妬いてるのか?」
『黙れ! さっさと我が背に乗らぬかバカモノ!』
「待ってください! あなた方はいったい…」

『今は説明している暇などない!…っ?』
「「!!」」
 その時、カイム達が出てきた空間の歪みから、一体の赤ん坊が出てきてアンヘルに覆いかぶさろうとした。
 そうなる前にルークが旋律を紡ぎ、赤ん坊を消滅させた。
『我らを追って来たか……』
「すみませんが、我々に分かる説明をしてくださいませんか?」
『…貴様らに説明して何になるというのだ?』
「ですが、先ほどのあれ…あの赤ん坊のような物体のことぐらい聞いてもいいのでは?」
「俺達にだってわかんねーよ!」
「ルーク、あなた何か知っているのね?」
「何を知っていやがる! 答えろ、レプリカ!」
「だから、俺はレプリカじゃないって。俺はこの人、と、このドラゴンの仲間なんだって」
「それじゃあ説明ならないわ! 説明して!!」
「だから……っ」
 説明に困っているルークの肩に、カイムが手を置いた。
 ああ、そうだった、もう時間がないのだった。
 カイムとルークは、頷き合い、アンヘルの背に乗ろうとした時。
 シティの奥の方から悲鳴が聞こえた。
「ちょっ…、まさか!」
『空間の歪みを通ってこちら側にまで流れてきたか…!』
「どういうことなのです!?」
「話しはあとだ、カイム、ついでだからあいつらを片付けようぜ!」
「…、」
 ルークの言葉にカイムは、それよりも早く剣を抜いていて、それからニヤリと笑うことで返答していた。
『こら! それどころではないのだぞ、待たぬか!!!!』
 アンヘルの制止も空しく、ルークも自分の武器を握り、カイムと共にユリアシティの奥へと走って行った。
 そのあまりの早さにルークと一時行動していた者達は言葉を失っていた。
 なぜならルークは、ここまで彼らの前で自分の力を出さずにいたからだ。普通の人間ならばありえない身体能力がおりなす戦いは、敵味方問わず恐怖に打ち震える。
 ユリアティの奥は、地獄絵図だった。
 しかしこんな状況は見慣れているルークとカイムは、逃げ惑うユリアシティの住人を助けるようで助けず、無視する形でひたすら敵を打ち倒していった。
 全滅させたところで、今いる大広間の隅に隠れていた老人に気がついた。
「おお……、こんなことは預言には詠まれていなかったはずだ。なぜこんな……」
 目の前で赤ん坊のような姿をした敵が人間を貪り食うのを見たせいか、恐怖のあまり失禁までしているようで、ルークは、なんだかヴェルドレに似てないかこいつと思いつつ、天井を見上げた。
 カイム達と敵が通って来た空間の歪みは、大きさを増し、すでにユリアシティを障気から守っていた天井部分をすべて消し去っていた。
 シティに現れた敵が全滅したことがきっかけになったのか、その歪みは徐々に消え失せ、紫の空気に覆われた外郭大地が丸見えになった状態になってしまった。
 ルークとカイムは顔を見合わせて。
「帰り道が消えちゃった…。どうする?」
「……」
「うん…。アンヘルと相談してから決めよう」
 アンヘルの通訳がなくてもカイムの言いたいことは分かる。
 先に踵を返したカイムを、ルークは追いかけた。
 アンヘルのもとへ戻ってみると、アンヘルとルークが一時旅路を共にした者達と、アッシュというそっくりさんが口喧嘩をしていた。
 アンヘルは、馬鹿にしくさった調子で言い返している。
 アンヘルに口喧嘩を挑むなんて…無謀だなっとルークは思った。
 アンヘルは、カイムとルークの存在に気がつくと、ムスッとした様子でこう言った。
『ルーク。お主、こちら側でいったい何をやっていたのだ?』
「別に」
 ルークは肩をすくめてどうでもよさそうに言った。
「なによあんた! アグゼリュス落としといて、ほんとになんでそんなに平然としてられるのよ!」
「だから俺はその、なに…、超振動っていうの? そんなの使えないんだけど?」
「何言ってやがる! おまえは俺のレプリカなんだ、使えねーはずがねぇ!」
「だからレプリカじゃないって…」
「じゃあ、なぜそこまで俺に似ていると思ってやがんだ!?」
「ただのそっくりさんなだけじゃねーの?」
『フンっ。どうやらこちらでは、顔の似た奴がひとりとしておらんのだな。放っておけ』
「分かってるよ、アンヘル」
「どこへ行く気ですか?」
「帰るんだよ。…あれ?」
 ルークがふと気づいて天を見上げた。
 それにつられて他の者も天を見上げると、白いものがちらほら現れているのが見えた。
「げげっ。あいつら幾らでも沸いてくるな」
「あれはいったいなんですの!」
「俺達にもわかんねーよ。ただ敵だってことは分かるけどな」
「先ほど、あれはあなた方を追って来たとか言ってましたね? まさかあなた方があの敵を呼び寄せたということですか?」
『知らんな。そうだな…、考えられることは、ルークの存在は奴らにとって有害だということだけだ。だから排除しようと躍起になっているのかもしれん』
「じゃ、じゃあ! あいつらの狙いはルークだってことか!」
「やっぱ…そうなのかな? 俺があいつらを簡単に倒せるから?」
『まあ、そう考えるのが普通であろうな』
「なにそれ! あんたのせいであたし達まで巻き込まれたってこと! サイテー! 早くどっか行ってよ!」
「言われなくたって、戻るさ。なあ、アンヘル。さっきのみたいな穴を見つけりゃ帰れるかな?」
『お主と我らがこちら側に来れたものと、同じであるのなら、元の場所に戻ることもできるのではないか? もっとも…、安全だという保証はどこにもないが』
「…、……」
『そうだな。今更躊躇する理由などない。ならば行くぞ。我が背に乗れ』
「敵がこちらにきますわ!」
「早く行って! このままだと危険だわ!」
『まったく…うるさい奴らだ。では、行くぞ』
 アンヘルが最後にそう吐き捨てて、翼を広げて飛び立った。
 あっという間に上空へと舞い上がったアンヘルに、白い敵が群がろうとする。
 敵の数自体はたいしたことがなかったので、すべてを撃破することができた。そのままアンヘルは、二人を背に乗せたまま飛び去って行った。
 ルークと一時旅路を共にした者達と、アッシュは、危機が去ったことに安堵した。
 それから変わり果てたユリアシティで、大広間でへばっていた町長のテオドールと会話し、セフィロトを利用してタルタロスを打ち上げて外郭大地へと戻った。
 ヴァンの動向を探る最中、ドラゴンと竜騎士と共に去って行ったルークが、アグゼリュスを滅ぼしたという思い込みを思い出した彼らは、とんだ疫病神だともうここにいないルークを口々に罵った。
 ワイヨン洞窟を調べたあと、セントビナーの危機を知った彼らはセントビナーを救うためにマルクトへ出向いた。
 だがここで彼らは重大なミスを犯すこととなる。
 それは、ユリアシティで出会った赤き竜と竜騎士と、謎の白い敵のことを報告しなかったことだ。
 ヴァンを一番の脅威とした考えが、彼らを過小評価する原因になり、イオンだけがユリアシティでの一件を報告しようかと迷っていたが、無駄に意志の強い他の者に阻まれることとなりマルクトの皇帝ピオニーや他の家臣達に伝わることはなかった。
 そしてアッシュ達が去った後、腑に落ちない様子のピオニーのもとにある報告が舞い込む。
 見たこともない美しい赤き竜と、その背に乗る二人の人間の姿がマルクト領内で目撃されたという内容だった。
 魔物の背に人が乗っているという話は、魔物を使役できる妖獣のアリエッタを筆頭とする魔物部隊ぐらいしか聞いたことがないだが、目撃者の証言では乗っていたのは若い少年と男性だったらしい。
 特に被害があったわけではないが、念のため警戒するようにと、ピオニーは指示を出したのだった。

 一方その頃。マルクト領内上空では。
「あの白いのいねーなー。ひょっとしてユリアシティで出たので最後だったのか?」
『ルーク、お主この世界で過ごしたなら多少の知識はもっておるだろう? この世界はいったいなんだ? お主とおったあの馬鹿者共といい、どうも肌に合わん』
「えーと…、預言(スコア)っていうのがあってさ、それで日常生活してる?」
『なぜ疑問形だ……』
「だって俺もよく分かんねーもん! なんか譜石ってのに詠まれた預言通りにならなきゃ悪いみたいな感じでさ。屋敷にいたときもなんでって尋ねたらメッチャ変な顔されたんだぜ? 常識だろ? なんで知らないのこいつみたいな」
『預言か…。そんなものに固執した世界…。くだらんな。先のことなど知って、何が楽しいというのだ』
「やっぱそうだよな! 俺もすっげーそう思ったんだけど、こっちじゃそれが常識みたいでさ」
『他者の言葉通りにするのは、自らが持つ選択肢を自ら捨て去る愚かな行為ぞ。我は願い下げだ。カイム、お主もそうは思わぬか?』
「……」
『……所詮我らは余所者。理の違いにいちいち口出しするわけにもいかぬ。我らは我らの道を行くだけ…。確かにその通りだ』
「カイムらしいなぁ」
 ルークはそう言いつつ、ニカッと笑って自分の後ろにいるカイムの体に背中を密着させた。
 するとカイムがぷいっとそっぷを向いた気配がして、ルークもアンヘルも笑った。
 それから彼らは、時々休憩を挟みながら、元の世界へ帰れそうな空間の歪みを探した。
 その途中で大地が落ちていくのを見かけ(セントビナー)少なからず興味が沸いたため、調べた結果、この世界が障気と液状化した大地を封じるために、ユリアが預言を参考に外郭大地を作ったのだという調べがついた。
 そのことにアンヘルが、もといた自分達の世界の封印のことを思い出したと口にし、苦笑していた。カイムも封印の女神になった妹を思い出したらしく顔を曇らせた。よく考えたらあちらの世界は、世界そのものを封印することで人類を滅ぼそうとする神の手から逃れていたのだ。規模が違えど何かから身を守ろうとするために真実を嘘で覆い隠すやり方に、考えることはみんな同じだなと言う感想を三人(二人と一匹?)は抱いた。
 その後、シュリダンという町に立ち寄った際に、あの白い敵が襲撃しようとするのを目撃したので、まあついでだということで助けに行ったら、イエモン達からそのお礼にと次元の歪みを探すのを手伝ってやろうと言われた。
 お言葉に甘えることにしたルーク達は、少しの間だだけシュリダンでのんびり過ごすことにした。
 なのだが、その平穏はすぐに打ち砕かれた。
 ユリアシティまでルークと行動を共にしていた者達に出会ってしまったのだ。
 目的があって来たらしいがユリアシティでの一件があったため、当然険悪なムードになる。イエモン達が町を守ってくれた恩人だと言っても聞きゃしない。さすがにこれには、アルビオールの操縦を担当するノエルも嫌な顔をした。
 結局それよりも大事な用事があるということで、最悪の事態だけは防がれた。
 その後、タルタロスを使った地核の振動を作戦が決行される時、ヴァンが率いるオラクル兵がシュリダンを襲撃した。
 これに対しイエモン達がジェイドらに作戦を優先させ、自分達が盾になろうとした。
 そのイエモン達を守ったのがルーク達だ。
 たった二人で結構な数のオラクル兵を斬って捨て、アンヘルが火を吐かずとも雄叫びだけで脅したりして(ドラゴンを見るのは初めてなので見ただけで腰を抜かしていた)、シュリダンの町民は犠牲を出さずに済んだのだった。
 圧倒的な力でこの危機を乗り越えてしまった二人と一匹に対して、苦い顔をしたのは、ジェイド達だ。なにせ彼らを敵だと認識しているのだから、彼らが手柄をとったのが気に入らないのだろう。
 後から来たリグレットとヴァンは、切り捨てられた部下達の死体の山に仰天し、怒りを露わにして無謀にもカイムとルークに戦いを挑んだ。
 もちろんヴァン達が戦って勝てる相手じゃない。アンヘルでさえちょっと可哀そうに思うほど、ヴァン達はボロボロにされた。
 ヴァン達にとどめを刺そうとするカイムとルークを止めたのは、あろうことかティアだった。これにはさすがにルークも、なんて命知らずな奴!っと、興奮状態のカイムの剣の矛先がティアに向けられて焦る彼らに同情した。
 仕方ないなと少なからずジェイド達と行動していたことがあったルークは、カイムを後ろから羽交い絞めにして、『さっさとタルタロスの作戦をやらないとまずいんじゃないの?』とつっこみを入れると、やっと本来の目的を思い出したらしいジェイド達が急いでタルタロスに走っていく姿を見送ってから、カイムを離した。
 カイムからの殺気たっぷりの圧力を受けながら、ルークは、ごめんと手を合わせて頭を下げた。そんな二人の様子を見て、アンヘルがやれやれと溜息を吐いていた。
 こんなやりとりが行われている間に、ヴァンとリグレットはいつのまにか姿を消した。あれほどの痛手を負わされたのだから、当分は表に出られないだろう。
 そうしてタルタロスを使った地核の振動を止める作戦は無事に終わり、戻って来たジェイド達と再び顔を合わせることになったが、シュリダンの人々の圧力もあってか彼らは堂々とルーク達に喧嘩を売れなかった。(売っても確実に返り討ちにあうだろうが)
 ジェイド達は、すぐに大地降下のために出発し、残されたルーク達は、イエモン達が次元の歪みの出現位置を特定するまでシュリダンに留まった。
 次元の歪みを発見するのは、外郭大地が降下してから一ヶ月後のことだ。
 その間にマルクトから直々に皇帝のピオニーが訪ねてきたり、イオンがルークに会いに来たり(アニス抜きで)した。
 ピオニーは、近頃空を悠然と飛行する赤き竜をこの目で見たいと思い、シュリダンにいると聞いて訪ねてきたのだ。
 賢王と称されるだけあり、アンヘルを前にしてもピオニーは微動だにしなかった。むしろこの美しい赤き竜に堂々と話をする姿はかなりすごい。アンヘルは、そんなピオニーを鬱陶しがりながらも、人間にしてはよく出来ている方だと称賛したぐらいだ。
 そしてイオンがシュリダンを訪ねたのは、ルークに会うためだった。
 初めて会った時からずっと気になっていたらしく、ユリアシティで行方が分からなくなってからずっと心配していたというのだ。
 アニスは連れてこなかったのかと聞いてみれば、アニスにルークに会いに行くと言ったら絶対止めるだろうから言わなかったという答えたが返された。
 自分の何が気に入ったのか分からないルークは、けれどイオンを突き放すこともできずにいた。
 そうしてイオンがルークがどこから来たのか、いったい何者なのか聞いてきた時、どうでもよさそうに語った。
 イオンは、ルークの話に驚いて、そして悲しそうな顔をした。凄惨な人生を歩んでいたルークのことを知らずにいたことについて、何故か謝罪されてしまい、ルークは首を傾げたのだった。
 そんな風にイオンと談笑しあっていた時、アニスが来た。イオンを連れ戻すためだったらしいが、なぜかルークがイオンを連れ去ったと決めつけてきた。
「いつまでもここにいないで、さっさと帰ればいいじゃない!」
「帰れるものならさっさと帰るさ」
 アニスの叫びに、ルークは、やれやれといった風に答えた。
 イオンは連れ戻され、イエモン達が次元の歪みの出現位置を特定したのは、それから間もなくだった。
 歪みの出現するタイミングと場所を知らされ、急いで出発した。
 出現位置は、ダアトの上空だった。
 赤い竜の登場にもちろん騒ぎが起こる。
 さらに運の悪い事に、ルークの元同行者達(+アッシュ)とも出くわした。
 下で彼らがギャーギャー騒いでいても、こちらは宙で待機しているのでどこ吹く風。気にせず待っていると、やがて空が歪んだ。
 やはり白い敵が数体ほど出てきたが、アンヘルが見事な飛行で掻い潜り、次元の歪みに突入することに成功したのだった。
 ルーク達が歪みの向こうへ消えると、歪みは薄れて消え、白い敵も吸い込まれるようにしていなくなった。
 謎の白い敵も、狂戦士と赤き竜、そしてルークがこの世界からいなくなったことに、ルークの元同行者達は、大層喜んで好き勝手に彼らをけなす言葉を吐いた。その脇で、イオンだけが悲しそうに、そしてなにより寂しそうに、ルーク達が去って行った空を見上げていた。
 厄介事がひとつ片付いたと安心した彼らは、彼らが再び集うことになったきっかけである第七音素の大量消費によるプラネットストームの活性化の原因を突き止めるべく動き出したのだった。
 アルビオールへ乗り込もうとした時。

 ミシッ

 何かが音を立てて壊れそうな音を、その瞬間世界中のすべての生物が聞きとった。
 それは、あまりに一瞬だったので、ただの聞き間違えだと思われたが、一部では、この音が何を意味しているのかを知っており、酷く絶望した。
 その嘆きは、彼(?)をその身に封じ込めた者の身に伝わり、何が起ころうとしているのかという知識も同時に伝わった。その恐るべき事実に彼(?)をその身に閉じ込めていた者は、否定しようと狂ったようにもがき苦しんだ。

『こうなってしまっては、栄光を掴む者(ヴァンデスデルカ)よ……、おまえがやること全てが、無意味だ……』

 これ以上はないといっても過言ではない、最悪の未来が待っていることを知ってしまったヴァンは、そんな結末を見るくらいならと、自らの命を絶ったのだった。
 動かなくなったヴァンの体から解放された彼(?)は、ふわりと抜け出て、宙に消えた。
 リグレットがヴァンの死体が残された部屋に入ったのは、それから間もなくのことだった。


 まるでガラスにひびが入るように、ピシピシと空に亀裂が入っていく。
 それは、世界中で目撃され、じわじわと広がっていく。

 グランコクマで、ピオニーは宮殿の窓から、その様子を眺めていた。
 この異常事態の最中、ふいに脳裏をよぎったのがあの赤き竜の姿だった。彼らは、次元に開いた穴からこちらの世界へ来てしまったのだと言っていた。彼らに関する最新の報告で、彼らがダアトの上空に出現した次元の穴の向こうへ消えたのだそうだ。きっともとの世界へ帰ったのだろう。
 ならば……、今この世界で起こっている異常は?
 まさか彼らが関係しているのか?
 様々な疑問が渦巻く中、ジェイド達がグランコクマに来たという報告を受けた。
 頭の中で思考を巡らせるのをいったん止めることにし、窓に背を向けようとしたピオニーの背後で、ついにそれは起きた。

 それは、まさにガラスが砕け散るような音と共に、空が砕け散ったのだった。
 砕けた空は、宙を堕ちる途中でかき消えた。
 砕けた空の裏側にあったのは、抽象的な油絵の背景のような気分を害するような濁った空だった。

 宮殿から慌てて飛び出してきたジェイド達。
 そこで見たのは、濁った空と、空を悠然と漂う白い赤ん坊たちだった。
 何より驚愕なのは、その数だった。
 ユリアシティで目撃した数とはケタ違いの、まさに世界を覆い尽くさんばかりの数に、ルークがいなくなったことで全てが終わったと思っていた彼らはただ呆然とするしかなかった。
 と、その時。アッシュは、頭痛を訴え、その場に膝をついた。

『馬鹿者め……』

「てめ……、ローレライか!?」

 響いてきた声にアッシュが頭を押さえながら叫んだ言葉に、他の者は驚いた。
『こうなってしまっては、手遅れだ…』
「どういうことだ!」
『ルークでなければ、あの敵は滅ぼせぬ……。だがルークは、この世界から去ってしまった…』
「あの劣化レプリカが奴らを呼び寄せたんじゃなかったのか!?」
『違う。あれは“時”を、空間を喰らい尽くす。いずれこちら側にも来る災厄だったのだ。だから我はルークをこちらに呼ぶ打算を組んだのだ…。しかしルークは、あの赤き竜と騎士と共にあちら側に戻ってしまった……。もはやこの世界を救う手立てはない』
「馬鹿な…! なら何故もっと早くそのことを言わなかった!」
『人類は試されたのだ。そして失敗した。……お終いだ』
「待て…、ローレライ! おい、黙るんじゃねぇ!!!!」
 ローレライは、それっきり何も答えなくなった。アッシュの頭痛も消えた。
「このままでは、どうなってしまうのです?」
 ナタリアが震える声で尋ねる。
 アッシュは、ぽつりぽつりと、ローレライが言っていた言葉を伝えた。
 蒼白して、信じられないでいるジェイド達だったが。

「ほう? なら、この状況はお前達のせいだということか?」

 いつのまにかいたピオニーが、腕組をして彼らを冷たい目で見下していた。

「なんで、それを先に報告しなかった? なあ、ジェイド」

 赤き竜と騎士、そしてユリアシティであの敵が現れたことを、ジェイド達は報告していない。過ぎたことと安心しきっていたためだ。

「まあ、抜き打ちテストだったんなら…、仕方なかったか」

 ピオニーは、変わり果てた空を仰ぎ見て、諦めたようにそう呟いた。
 自分達は、世界の命運がかかった抜き打ちテストで失敗した。偶然の重なりが原因だといったらそうなのだが、抜き打ちでそんな言い訳は通用しない。試されたのは、この世界で繁栄する人類そのもの。世界の意志そのものであるローレライは傍観するしかなかったのだ。何故なら世界はいつか滅びることを知っているからだ。それがこのテストで早まった。それだけなのだから。
 唯一の希望であったルークに嫌われ、立ち去られたこの世界には、もう救いの道は残されていない。
 ただ滅びるのを待つのみ……。
 やがて空を砕きながら、赤子とは違う、大人の女のような姿をした白い敵が舞い降りてきた。
 大地に降り立った女は、天を仰ぎ見ながら、まるで祈りを捧げるような仕草を見せながら大きく口を開き、歌を歌い始める。
 それは、滅びの歌。滅びゆく世界へ捧げられる美しく、残酷な歌声。
 赤ん坊たちは、女がこの世界という会場で歌う姿を楽しむ観客のように、見た目相応の無邪気さで生きる者を貪る。
 赤ん坊を天使と形容するのは、その無垢さゆえだろうが、この巨大な赤ん坊たちも見ようによっては、天使と認識できるだろう。……ただし歯の間に人間の手とか、足とか、なんか髪の毛っぽいものとか、肉片が挟まってて、ついでに口の周りが血で真っ赤になってなければの話だが。

 こうしてオールドラントは、天使達に貪りつくされて滅んだ。










あとがき

 すっごく書きたかったけど、非常に苦労したリクエストでした。
 ルーク達が帰ったら、入れ替わりに敵が来ちゃうという流れでというリクエストだったので、そこを書くのに苦労しました。
 どうやってカイム達がオールドラントに関わっていくか。
 ルークにとってオールドラントに残る価値があるかどうか。
 アンヘルに興味津々のピオニーと、ルークのことが気になるイオン。
 ローレライの手出しが許されない人類への抜き打ちテスト。
 もうごちゃごちゃして訳が分からなくなってしまいましたね。

 リクエストしてくださったルナ様に、申し訳ありません!
 ご不満がありましたら、書き直ししますので遠慮なく!
 予定としては、この後、ルーク達がDODに帰還してからの話と、セエレ達も一緒に来た場合のバージョンのものを書こうと考えてます。






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