これ→『竜騎士(ドラグーン)の御子』のおまけ話。
 完全なるIFで、みんなが幸せになるエンドを考案してみたものです。
 死んだはずの人が生きてたり、狂った人がまともに戻ってたりゴチャゴチャしてますので注意。

 いやいや! DODは、あのマルチBADエンドがいいんだ、平和なんて似合わないぜ!って方は、バックプリーズ。



 あと、腐向け要素と、健全(?)要素を含みます。人間×ドラゴンって健全?











『竜騎士(ドラグーン)の幸せ』




















「ふがっ…!」
 鼻ちょうちんが破裂して、ルークは目を覚ました。
 いつのまにか寝てしまっていたらしいと思いながら身を起こそうとしたが、ふいにルークは固まった。横を見れば、見慣れた男が寝ていたからだ。
 今は、鎧を脱いだラフな格好で、ルークに腕枕をしてやって、自身もスースーと静かに寝ている男は、カイム。
 今ルークとカイムは、木陰の下にある芝生の上で寝転がって昼寝していた。最初はルークだけだったはずなのに、いつのまにか横にいたカイム。しかも腕枕までサービスしている始末だ。
 先に目を覚ましてしまったルークは、カイムの寝顔を見ようと顔を近づける。
 長めの前髪から見える目は、二重でまつ毛も長い。今は閉じられた瞼の下には、鮮やかな青い瞳がある。
 顔立ちもさすがだというぐらい綺麗で、唇の形も良い。
 まさに、ザ・イケメン(笑)である。
 つい最近まであれほど戦場で頭から爪の先まで生臭くして、剣に笑みを映していた、まさに狂戦士だった頃の姿からは想像もできない呑気な姿がルークの真横にある。
 そういえばあの恐ろしい出来事から、もうどれくらい経つだろうかとルークは、ぼんやりと思い返した。
 オールドラントという異世界から戻ってみると、あの白い敵も、壊れてしまった空も、何もかもが綺麗に消えていたのだ。
 大いなる時間を喰らう敵の影響がそうさせたのか、世界は様変わりしていた。
 最終封印とか、帝国とか。
 世界を脅かしていたものがなくなっていた。
 だがあの時の記憶が消えたわけじゃない。当然だが混乱は避けられなかった。
 しかしそれも時と共に落ち着き、人も魔物も、新しく生まれ変わった世界に順応していった。
 それにすべての悲劇がなくなったわけじゃなく、失われたものがすべてもどったわけではない。
 フリアエは、最終封印から解放されたが、カールレオン王国が滅んだ事実は変わらなかった。
 帝国の支配者であったマナは普通の少女に戻っていたが、母に愛されず、ついには捨てられた事実は変わらなかった。
 帝国が消え、洗脳されていたイウヴァルトは、正気を取り戻し、ブラックドラゴンとの契約が消えて失った歌を取り戻していた。
 契約こそ失われたが、ゴーレムと変わらず友達としての関係を保つセエレは、母親が死んだという現実は変わらず、代わりに今度こそマナを守るのだと言ってマナと生きていく道を選んだ。
 セエレとは反対に、フェアリーとの契約がそのまま残ってしまったレオナールは、自分はこれでいいのだと言い切り、身寄りのないセエレとマナの保護者として生きる道を選んだ。フェアリーは相変わらずレオナールを罵っているらしい。
 アリオーシュは、二体の精霊との契約が消え、狂気に走る原因になった家族を取り戻し、あの殺人鬼だった頃のことを忘れて幸せに過ごしているらしい。
 ヴェルドレは、神官として変わりなく仕事をこなしているが、変わってしまった世界がこの先どうなるか不安で眠れない日々を過ごしているらしい。
 最近の便りによると、イウヴァルトは、フリアエに改めて告白し、今は静かに二人で生活しているのだそうだ。
 そしてカイムは……。

『まったく……、呑気な奴め』

 呆れた調子で言う、アンヘルの声が聞こえた。
 ばさりという翼のはためく音と共に、木々が揺れる音がした。
 地面にドラゴンの巨体が降り立った衝撃音も、そのあと、ズシズシとアンヘルが近寄ってくる足音がしても、カイムは目を覚まさなかった。
 熟睡するにもほどがあるだろ…っと、あの狂戦士だった頃はどこへやらなカイムに、ルークはがくりと頭を垂れた。
 オールドラントから戻ってきて、戦う必要がなくなり、かといって故郷が滅んだ事実はそのままだった。
 本当ならカールレオン王国の王子として祖国の復興に力を尽くすべきなのだろうが、国が滅んでから数年、そして動乱、もはやカールレオンの民達は国民としての意識は失せており、なによりカイム自身が戦うことに明け暮れ過ぎて王子としてのあれやそれを忘れてしまっているというのが大きかった。
 契約で声も失っているし、なによりも契約者は畏怖される存在だ。だから彼は、連合軍からも身を引き、今は契約相手のアンヘルと、そしてルークを連れてあてもなく旅をしている。
『これがこやつの本性なのだとしたら、呆れてしまうな、まったく……』
 そう言いながらクックッと笑うアンヘルは、呆れている素振りを見せながら満更でもなさそうな笑みを浮かべている。
 ルークは、ふうっと息を吐きながら立ち上がろうとしたのだが、立ち上がれなかった。
 見たら、カイムの手がルークの服を掴んでいて、そのまま引っ張られて倒れる羽目になった。
 でもっていまだにグーグー寝てるカイムにがっちり抱きしめられてしまった。
「イデデデデデデデ! か、カイム、死ぬ!」
 契約者は、常人を超えるパワーがあるため、とにかく怪力だ。しかも寝ているせいか加減がない。
 苦しみながらカイムの腕の中から逃れようともがくルーク。アンヘルは、そんな様子を見て笑いをこらえるのに必死な声を漏らしていた。
 笑っているだけで助けてくれないアンヘルに抗議しようとルークが声を上げようとした時。
 ふいにカイムの腕から力が抜けた。
 だが抱きしめている腕はそのままで、丁度、顎の下あたりにあるルークの頭にすりっと顔をすりよせてきた。
「……俺は、抱き枕かよ」
『嫌われるよりはマシだろうて』
「だからって抱き枕扱いは、ヤダっ!」
『なにを恥ずかしがっておるのだ? 満更でもないのだろう?』
「うっ……」
『素直になればいいものを…。今、おまえの隣で世界が崩壊しても起きそうにないほど寝こけておる、そこの馬鹿者が、なぜおまえを傍に置くことにしたのか考えたらどう…』
「知ってる! 言うなよ、馬鹿ドラゴン!! おまえだって惚気てんじゃねぇかよ!!」
『この我に、馬鹿と言うか、この馬鹿小僧が。のう、カイム、酷い小僧だと思わんか?』
「へっ?」
 ルークが間抜けな声をあげて、カイムの方を見ると、カイムはいつの間にか目を覚ましていた。じーっと見てくるカイムの視線に顔が真っ赤になった。
「い…いいいい、いつから……?」
『おまえが立ち上がろうとするのを阻止したところからだ』
 つまりアンヘルは、最初からカイムが起きていたことを知っていたのだ。なにせ契約を結んで魂をひとつとした仲なのだから分からないはずがなかった。
「寝惚けてたんじゃなかったのかよ!?」
『まだまだケツの青いガキのお主とは大違いだからな』
 ふふんと鼻で笑うアンヘルに、ルークはカッとなった。
「ガキ、ガキって…、いつまでもガキ扱いすんじゃねぇよ! 俺だってもう大人だろ!」(一応17歳)
 そう言いながら起き上り、アンヘルに掴みかかろうとしたルークだったが、カイムの手がルークの腰を掴んだ。
「うおっ!」
 そしてそのままカイムの膝の上に座らされた。
 抱き枕の次は、膝抱っこという仕打ちにルークは泣きだしそうになった。
 どこまでも子供扱いされていることにルークが暗くなっていると、カイムが片腕でルークを拘束したまま、もう片手でルークの頭をよしよしと撫でた。
 カイムとしてはルークを子供だからと馬鹿にしているつもりはないのだが、可愛がろうとすればするほど、ルークは子供扱いされたと不服に思われてしまっている。
 故郷がなくなってからずっと復讐のために戦いに明け暮れていたカイムは、正直言って人との接し方を忘れかけているところがあった。
 まだ両親が、故郷があった頃の自分ならどういう対応していただろうかと思いだそうとしても思い出せるものじゃない。
 けれど、昔は昔、今は今。血生臭い戦場を駆け抜けて、生き残るためにアンヘルと契約して、戦い続けた日々は、今の自分を形作る大切な糧となっているのは否定できない。それがどれほど辛く、悲しく、そして狂気に彩られたものであっても……。
「……、…」
『おお、……我もそう考えておるぞ、カイム』
 アンヘルが穏やかな口調でそう言いながら、目を細めた。カイムに向けるその眼差しは、高位の魔物であることを自負する高貴なドラゴンからは想像もできない、優しく、深い愛情に満ちている。
 カイムは片手を伸ばしてアンヘルの首を撫でた。アンヘルは、気持ち良さそうに目を細め、猫のようにグルルっと甘えるような鳴き声をあげた。
「……」
 顔を真っ赤っかにしたルークをぎゅっと抱きしめ、その朱い髪の毛に唇を押し付けて、カイムは幸福そうに目を閉じた。
 この平穏がいつまでも続くとは、誰も考えていない。
 でも……、今だけは。
 今だけは……。
 いつか必ず訪れるであろう脅威に立ち向かえるように。


 今が、一番幸せだ

 カイムは、失った声でそう言ったのだ。




 これもまた、ひとつの物語。
 竜騎士が辿った物語の結末のひとつである。














あとがき

 うん。無理があった!
 書き終えて思った。マルチBADエンドゲームに幸福エンドは、似合わなすぎると!
 しかし救いが欲しいと思ったので、書いたのですが……。
 ついでに世界が変わってしまったという設定について、これ完全にカイム達の世界のうんたらかんたらの悪いとこ全部オールドラントに擦り付けちゃってますね。(赤ん坊の敵全部あっち行ってるし)
 もちろんですが、カイム達は、オールドラントに赤ん坊が全部行っちゃったことは知りません。戻って来た当初、何があったんだ?ってみんなで首を捻っています。
 本編であんなでしたが、アンヘルとのやり取りから、きっと狂戦士になる前のカイムはこうだったんじゃないか、戦う必要なくなったらこうなるんじゃないかという妄想で、なんかちょっとスキンシップ過多(声がないので体で表現)で、自分より年下、好きな相手を甘やかす人になってしまいました。

 結論。ただルークとイチャイチャさせたかっただけ。そしてそれをからかうアンヘル様。私は、アンヘルをなんだと思っているんだ……。





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