ルナ様からのリクエスト
『ローレライ=クトゥグア。TOA世界=クトゥグアが幽閉されている惑星フォーマルハウト。ルークとアッシュが、ニャルラトテップの天敵・旧支配者クトゥグアの力を持つ者。二人は本体であるローレライを解放したら、幽閉地であるTOA世界を焼き滅ぼす気(最初ルークは反対だったが、同行者によって考えを変えた)。でも二人が手を出さずともニャルラトテップの干渉でTOA世界は滅び行く運命にある』










(※アッシュ(ルーク)爆誕の回。シュザンヌさんが大変なことに……)



グロ注意かも



【最初は、誰もが嘘だと思った。信じる事が出来なかった。】 序章 (お題提供:オセロ(終末世界20のお題から抜き出し))





































 見慣れないものを見て、そんなことはありえないと考え脳の中から追い出すというのは、決して間違った行動ではない。

 間違いなどということは、恐らくこの世界全ての出来事をひっくるめても、ありはしないのだから。

 ただ……、人間という種族よりも、“彼ら”の方が先に生まれてきて、そこに存在していた、そして歴史の新しい人間達がそのことを知らなかった、ただそれだけのことだったのだから。




***




 ND.2000。
 ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。
 其は、王族に連なる赤い髪の男児なり。
 名を聖なる焔の光と称す。
 彼はキムラスカ=ランバルディアを、新たな繁栄に導くだろう。

 以下の内容が、ローレライ教団がキムラスカ王国にもたらした預言の内容であった。
 具体的に誰のもとで、該当する子供が生まれてくるのかは明記されていなかったが、もっとも王家の血を濃く受け継いでいたファブレ公爵とインゴベルト国王の妹であるシュザンヌが婚姻を結んだため、恐らく彼らの間に生まれてくる子供がそうであろうと周囲は納得した。
 しかし万が一ということもあるので、シュザンヌが懐妊してからの厳戒態勢ぶりは相当不自然にも思えるほどであったようだ。
 けれど当のシュザンヌ婦人の方は至って順調であった…が。
 彼女が懐妊したたことを、まるで告知するような夢を、彼女がはっきりと覚えており、その内容は地上を照らす太陽そのものを彷彿とさせる輝きを放つ炎の塊が出てくるものであったという。
 しかし必ず彼女はその夢を語る途中で、酷く不安になり、全ての内容を言わない。
 シュザンヌの身の回りを世話するメイドの古株にだけ、ただ一度だけ絞り出すように語られたことは。
 その炎の塊が、世にもおぞましい心も声を持たない怪物で、暗闇の中見えない枷をはめられて、戒めを引きちぎらんと身を震わせて、おそらく戒めをかけた者に向けていると思われる声なき呪いの叫び声をあげているのだと…。
 決して聖なる焔に関係するとは思えない恐怖に満ちた夢に現れた炎の怪物が頭から離れず、腹が膨れていくごとに、シュザンヌは不安におびえ、夜も眠れず、見る間に衰弱していった。

 
この子を、産んではいけない…!

 それまで周囲の人間達に励まされ精神安定をどうにか保ってきたが、臨月が迫った頃ついにシュザンヌがたかが外れたように悲鳴じみた訴えをあげ、腹の子供を堕ろそうと自らの体を傷つようとしたしたが、周囲がそれを許すはずがなかった。
 キムラスカの上部に伝えられた預言は、聖なる焔の誕生だけではなく、聖なる焔の死と、それをきっかけにしたマルクト帝国との戦争での勝利、その後に未曽有の繁栄が来るというものがあった。
 そのため生贄を生むための道具に他ならないと言ってもよかったシュザンヌの訴えが届くはずがなく、寝台にくくりつけられ、無事に子供を取り上げることができる状態でシュザンヌは生かされることになった。

 そして運命の日の夜…、満月もない、星がきらめくよく晴れた夜。
 まるで星の神々が祝福しているかと思ってしまうほど星がよく見える夜空の下。
 気が狂ったように泣き叫びながらシュザンヌは、多くの助産師と医師に囲まれ、生贄となる子供を産むことになった。

 扉の一つ向こうで、少なからず妻に対する処置に心を痛め、せめて妻と子供が無事に生きていることを願っていたクリムゾンは、その場を明るく照らしていた第五音素のランプが一瞬彼を嘲笑うように輝いたような錯覚を覚え、目を疑った直後。
 背にしていた扉の向こうからシュザンヌの断末魔のような悲鳴があがり、思わず体が大きく跳ねてしまった。
「シュザンヌ! …っ!!!????」
 慌てて扉を開けて中に飛び込んだ先で、信じがたいものを見ることになった。
 医師や助産師達が壁際に、あるいは床に尻もちをついて恐怖に慄いている。
 問題なのは、ベットの上にいたシュザンヌだ。
 それこそまさに発狂し、果てしない苦しみで歪みきったうえに涙や鼻汁といった顔から出せる体液で美しかった顔が彩られ、拘束具を引きちぎったために血が出てしまった手足をでたらめにばたつかせてのたうちまわる。
 部屋はいつも以上に明るかった。
 なぜならば…、シュザンヌの足の間と、腹から燃え上がる炎によって部屋に設置されていた明り以上に明るくなっていたからだ……。
 クリムゾンの背後で、出産に立ち会っていたインゴベルトや他の家臣達がその光景に悲鳴をあげ、情けなく尻もちをつき、腰を抜かして無様な体制でその場から逃げようとまでした。
 クリムゾンはただその場に立ち尽くしていた。逃げることもできず、かといって声をあげることもできず、ただただ膨れた腹を燃やされているシュザンヌを見ていることしかできなかった。
 暴れるシュザンヌのせいで、炎が寝台のカーテンに燃え移り、転げ落ちた拍子に近くにいた医師や助産師に燃え移った。
 炎は、祝福するように明るく燃える。
 祝福しているように見えたのは、見間違いかもしれないが、屋敷に燃え広がろうとしている炎を消そうと待機していた部下達や屋敷の人間の声が飛び交い、クリムゾンを避難させようと声をかけ肩を掴んだ。
 その直後、ブワッと熱気が燃え広がったかと思うと、炎に囲まれたシュザンヌの体から炎越しに何かがのそりと這い出てきたのをクリムゾンは確かに見た。
 途端、全ての炎が一瞬にして消え失せ、奇妙な静寂がその場を支配した。
 煤と灰にまみれたシュザンヌの傍らには、乾いた血と羊水に塗れていてもよく分かるクリムゾンと似た濃い鮮血色の髪を持つ赤子がぼんやりとシュザンヌを見ていたが、突っ立ているクリムゾンに気付いたのか、ゆっくりとそちらを見たその目の色は、赤髪と同じく王家に連なる翡翠色の眼だった……。

 こうして、母の体を焼いて、その赤い髪の男児は、誕生した。
 母親の体を焼きながら生まれてきたのが何よりの証拠だとして、その壮絶な誕生の恐怖と異常さをそっちのけでキムラスカ王国の繁栄のための生贄の誕生を喜ぶことを優先した国王により、預言通りイスパニアル言語で聖なる焔を意味する言葉、『ルーク』と名付けられた。
 繁栄のための生贄の誕生を祝福する王の祝いの席の傍ら、クリムゾンは全く喜べないでいた。
 素直に喜ばないことを咎められれば、愛想笑いでどうにか取り繕うが、クリムゾンの脳裏には、ルークが生まれるときに発生した妻を焼いた炎の輝きと、自分の方を見たルークの翡翠の眼の輝きが張り付いて離れなくなっていた。
 酔いを覚ますと嘘をついて、城のバルコニーに出てみると、夜空に星が瞬いていた。
 疲労とアルコールのせいかクリムゾンの目には、星の輝きまでもがクリムゾンを…この国全てのものを嘲笑っているかのようにギラギラと異様な光を放っているように見えた。
 その輝きに眩暈を覚え、咄嗟に手すりを掴んで折れそうになった膝を支えた。その合間に目を閉じ、次に目を開けた時、バルコニーの手すり越しに自分を照らす明かりの存在に気がついた。
 バッと顔を上げると、そこには鮮やかな炎を背に、ルークが宙に浮いてクリムゾンを見下ろしていた。
 喉がひくりと鳴るのを感じながらクリムゾンは、生まれたばかりであるはずの息子から目をそらさず震える体を恐る恐る後退させた。
 下手に刺激すれば、妻のように焼かれてしまうかもしれない。クリムゾンは必死だった。
 そんなクリムゾンの様子を見て赤子のルークは、確かに…笑った。
 するとルークの姿が炎と共にその場から消え、夜風の音と祝いの席の音と声だけがその場を支配した。
「クリムゾン殿、どうかされたのですか?」
「…っ」
 その場にへたりこんでしまっていたクリムゾンに、祝いの席に招待されていた貴族の当主が話しかけてきた。
 クリムゾンがそちらを振り向いた時、彼の眼には、妻を焼き、先ほど息子が纏っていた炎に包まれた自分が今いるバチカル城が…見えた。
「あぁぁっ!!!!!!!!」
「クリムゾン殿!?」
 貴族がクリムゾンの様子に驚いて声をかけてくると、それを合図にクリムゾンの目に映っていた炎の幻は消えた。
 息が切れ、高鳴る心臓を抑えるように、クリムゾンは手すりにしがみつくようにして立ち上がり、あれほどの炎に焼かれながらかろうじて一命を取り留めた妻が、ルークを生む前から訴えていた言葉を思い起こしていた。

 
この子を、産んではいけない…!

 ああ…、今なら妻の言葉が理解できる。
 クリムゾンは顔を両手で覆い、呪われた我が身を憐れんだ。
 間違いなく、先ほど見た幻は遠からぬ未来の情景だ。
 自分を含め、この国の全てが息子の手で滅ぼされることになるだろう。
 預言など関係なく、灰すら残さぬ紅蓮の劫火に焼かれ、この世から消し去られてしまうのだ。

 
……本当に、それだけ?

 クリムゾンは、ハッとした。

 
ほ ん と う に 、 “それ(キムラスカ王国が滅びる)” だ け で 、 す む の か ?

 そう思ってしまったクリムゾンは、そんなはずがないとかぶりを振ったが、否定しようとしたクリムゾンを咎めるようにあまりにもいいタイミングで意識が途絶えて倒れてしまった。
 暗闇の向こうで、妻のシュザンヌが夢にみたという、太陽に等しき炎の塊の姿をした怪物が、見えない枷を引き千切ろうと身を捩っている姿を見た様な気がした……。

















あとがき

 ローレライ(=クトゥグア)の力を継ぐ者、アッシュ(ルーク)誕生の回でした。
 シュザンヌさんが大変な目に合わせてしまいましたが…、何せ邪神(つーか破壊神)ですからね…、昔見た『オーメン』のイメージを思い出しながら、不吉さと、それに気づかない馬鹿達の様子を表現しようとがんばったつもりなんですが…、難しいですね。
 クリムゾンは、その後ノイローゼになる予定。精神安定剤は手放せない。呪われてしまったから…。

 次の話では、アッシュの凶暴性(破壊神ですから)と、ルークに力の半分が移る…つまりニャル登場とヴァンに誘拐される、そしてレプリカが作られる話にする予定。

 現時点での私のクトゥグアに対するイメージは、ニャルと違い知性はなく、ただ破壊衝動のみで動く超突猛進、もっと簡単に言うと超短気(ニャルが策を巡らせて相手を導くから相当気が長いっぽいからその逆を取って)。







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