FIRST mission 『目覚め』















 2XXX年。地球環境は人類が築いてきた文明の代償として、かつてない環境破壊に見舞われていた。
 青空を覆う灰色の雲。雲がなくとも空の青さを汚す大気の汚染。失われた緑。濁った水。荒れた大地。
 高度な文明がもたらした技術にすがり、どうにか人類は今日を生きてこれていた。

 そんな中、世界中の人々から「楽園」と呼ばれる小都市、シティ・ヴァルハラだけが環境がまだ正常だった頃を再現したような豊かさをもっていた。

 機械技術も、もちろん超高水準だが、木々や花々、澄んだ川や湖に浜辺と海、そしてすでに絶滅したといわれる野生の動植物がいるのだ。
 まさに楽園のような場所に、疑問を抱く者も少なくない。
 分かっていることは、この都市がコアシステムと呼ばれる都市の全てのシステムを司る中心があることと、それを開発したのが十代の少女だということ。
 かの楽園を生み出している要因については、科学的証拠がない。全く持って不思議な場所だった。

 近年の噂では、シティの近辺に、百年以上も前の時代に今や伝説としてその名を残す二人の天才科学者が残した遺産が眠っていると言われている。
 噂が事実だと裏付ける、遺産の封印を解くために必要なカギを持つレプリロイドが二体発見されていた。
 …そのうちの一体は逃走し、凶悪なイレギュラーとなっているという。
 もう一体は、最近見つかって、機能凍結状態から目覚めたばかりだという。

 名前は、エックス。未知を意味する名を持つ、トーマス・ライト博士の最後の作品。




***




 ガラス越しにエックスのいる室内を眺めていたマキは、溜息をついた。
「(これじゃあ、実験動物扱いね…)」
 いや、実際そうなのだ。
 近年、このシティの近くの土地で発見された遺跡…そこに隠された伝説の科学者ライト博士と、ワイリー博士の遺産へ続く扉を開くカギの一つ。
 エックスの体内には、カギの一つとされているXコードがあった。
 殺風景な室内を望める高い位置にある強化ガラスと、厳重な扉、置かれた寝台と簡素なサイドテーブルと椅子にしても、まるで捕虜を収容しているような寒々しさを放っていた。
 寝台に腰かけて俯いているエックスは、つい最近機能凍結状態から目覚めさせられて、この部屋と研究室の往復をさせられている。
 彼にはどうやら眠る前の記憶がないらしく、この状況にただ翻弄とされているようだ。
 シティの指導者達は、エックスのことをカギが入った入れ物としか思っていない。まあ、一部の研究者達は、一目で、または調べていてエックスの体の構造の素晴らしさに涎を垂らしている。
 右も左も分からず、ロクな情報を与えられずにただされるがままの状態のエックスは、一言で哀れだとしか言いようがない。
 コードを取り出すのが容易でないことは、先に見つかったもう一つのカギを持つレプリロイドで分かっていたことだ。
 コードは、それを体内に持つレプリロイドのDNAと結びついていて、無理やり抜き出そうとすると、そのレプリロイドのDNA、及び電子頭脳(ハート)ごと壊れてしまうようになっている。
 壊さずに入手するには、本人の意志でコードを出させるしかないのだ。つまりは、そのレプリロイドの信頼を得て、心を開かせなければいけない。
 そんな悠長なことをやるほど上部も、研究者達も気が長くなかったのがエックスの不幸だった。
 もう一つのコードを持つレプリロイドを取り逃してしまったのも原因の一つだろうが、コードを壊さずに取り出す手段を探している。コードさえ無事に取り出せれば、それを持っていたレプリロイドの安否はどうでもいいのだ。
 マキはやがてエックスへの興味をなくし、踵を返して自らの研究室へ戻った。
 マキとて研究者だが、遺産についてはあまり興味がなかった。
 マキが熱中しているのは、もっと別のものだ。
 研究室に戻ったマキは、パソコンが設置された机の椅子に腰掛け、足を机に置くという行儀の悪い姿勢を取り、部屋の端にある大画面の電源を入れた。
 画面に映ったのは、端正な顔立ちをしたレプリロイドだったが…その姿は異様だった。

「あなたの“ミール”は、何か言ってたヴァル?」

 一転して愛おしそうな表情を作ったマキの言葉に、画面に映っているレプリロイド、ヴァルがはにかんだ。
『エックスとお話をするよ、マキ』
 そう言って巨大な電子機器と接続していた体をはがして、ヴァルは立ち上がった。骨の翼のような形をした背中の部位を緑色の水晶が侵食した、彼の最大の特徴である水晶の翼がバリバリと音を立てて電子機器からはがれた。剥がれ落ちる余分な水晶を払うように翼をバサバサと開閉させると、映像を映しているカメラに顔を向けた。そして黒曜石色の目を柔らかく細めて、はにかむ。
「それはミールが? それとも…あなたの考え?」
 マキは、クスクスと微笑みながらまるで幼い子供に尋ねるように言葉をかける。
『エックスと話がしたいのは、私の意志だ、マキ』
 ヴァルは、そう言ってまたはにかむと、一瞬にしてその場から姿を消した。
「…食べちゃう(同化)のは、ダメよ」
 ヴァルが姿を消した画面に向かって、マキが遊びに行く子供に言う母親のように言った。
 マキは、机から脚を降ろすと、目の前のパソコンに映る画面を見て、何度かキーボードを叩いた。
「ねぇ…、“あなた”は、何をしたいと思っているのかしら?」
 悪戯っぽく笑ったマキが、パソコンに映るコアシステムから得られたデータに向かって語りかけた。
「私はもっと、“あなた達”のことを知りたいなぁ…」
 クスクスと笑うマキに反応を返すように、画面に映るデータがわずかに変動した。
 ミール…、彼…いや彼女?こそ、このシティ・ヴァルハラを楽園と呼ばれるようにした根源なのだ。
 もっとも、そのことについて彼女以外の研究者もシティの指導者達も皆信じてはいない。なぜならあまりにも存在が超越しているからだ。
 しかし、それ以外にこのシティの豊かさを生み出す大本があるのかというと、それを裏付けるものだってない。
 ミールという存在のおかげだといえばこうも簡単なのに、頭の固い馬鹿共だとマキは内心侮辱していた。いやしっかり顔と声に出して侮辱したこと数知れずであるが、今だマキを重宝しているのは、シティを支えるコアシステムの製作者がマキだからであり、その原理を理解し、万が一の時に修復修繕できるのもマキしかいないからだ。
 マキは、シティの中枢とするべくコアシステムを制作したわけではなかった。
 自分が制作したレプリロイドと融合して、彼女の前にその存在を知らしめたヴァルのコアをヒントに、ヴァルとコンピュータを繋いで、微調整を加えることで作り上げた、ミールと同調することでミールの意志を知ることができるシステム。これがコアシステムだ。
 遥か大昔に地球に飛来してきたものと思われる、言ってしまえば土と変わらない素材でできている謎の知的生命体フェストゥムと対話するためだった。ミールは、フェストゥムの中核に位置する、虫で例えると女王バチといったところだろう。
 シティにいるそのミールを中核としているヴァルは、コアシステムを通じてミールの意志を代弁する役をするようになった。
 そのためコアシステムは、シティの全てのシステムの中枢としての役割を果たしつつ、何が起こるのか分からないという未知を秘めていた。現にこれまでに何度もシティの下にある土地にいるらしいミールのせいで、良くも悪くも色々なことがあった。
 コアシステムを中枢をしてしまったことで、ミール=シティの意志そのものという図式が成り立ってしまったのだ。
 また、ヴァルが自分の意志で行動することも少なくはなく…、正確にはミールとヴァルの意志が伴っていた。
 そのことについて、上部も研究者達も市民も、ミールによってシティの全てが支配されていることだけは頭に入れている。だからそれについての不満をマキにぶつけることは決して少なくはない。ミールを自分達で操れないかという言葉も多い。
 しかしミールは、一つの意志なのだから好き勝手できるものじゃないことを、マキはうんざりすることなく笑って語る。
 マキは、彼らが自分をどうこうできないことを熟知している。知っている。
 だからいつだって笑って、自らの研究を続けられるのである。

「マキっ」

 突然彼女の背後から声がして、驚いたマキが振り返ると、ヴァルがニコニコと笑って立っていた。
 ヴァルには、何の計測器にも引っ掛からない、障害物も、距離も一切を無視した瞬間移動ができる。いきなり来るのも珍しいことじゃない。
「どうしたの? ……何やったの?」
 ヴァルの笑顔から、善からぬことをやらかしたことをすぐさま察したマキは口元が引き攣らせながら目を細めてヴァルを見上げて聞いた。
 ヴァルは、後ろで手を組んで、悪戯っぽく笑いながら。

「エックスの部屋の扉を開けた」

 ヴァルのその言葉が合図だったかのように、マキの部屋の通信機器からけたたましい音が鳴り響き、それだけでエックスが施設からいなくなってしまったという連絡で研究施設やら政府の関係者達が右往左往していることが想像でき、マキは額を押えて溜息を吐いた。
 ヴァルは終始ニコニコと笑っているだけだった。
 眉間をマッサージしていたマキは、ふとその手を止めヴァルを見た。
「まさか…、“赤いあの子”と会わせる為に?」
「“ゼロ”は、ずっとそれを望んでいたから」
「…殺されない?」
 もしくはそれ以上に酷い目に逢わされるかも?
「それはゼロ次第だから」
「百数年の時を超えた因縁か…。気の毒なものね」
「そんなことはないよ、マキ」
「ああいうのは、あまり良い結末を迎えなさそうじゃない」
「選択肢は、そればかりじゃないよ。何が幸福で、何が不幸かは、それを感じる自分にしか分からないことなんだ」
「傍から見たら不幸な結末が多そうって言いたいの」
「マキは、あの二人が笑顔になれる道がないと思う?」
「可能性は低そうじゃない」
「可能性はあるよ。マキ、私は…」
 ヴァルは、慈しむような笑みを浮かべて。
「彼らの笑顔がとても素敵だから、だから彼らが笑顔になれる道への分岐を教えたいと思う」
「そう…」
 マキが素っ気なく返事を返すと、ヴァルは、もう一度笑って、ふっと姿を消した。
「……気の毒だ、気の毒だわ。色んな意味で…」
 再度額を押さえて、そう呟きながら、これから起こるであろう一騒動に向け準備をしておこうと、マキは腰を上げた。




***




「いたか!?」
「いや、そっちは?」
「こちらイーストエリア探索班! 逃走した青いレプリロイド、今だ発見できず!」

 規模からすると、今のご時世では小さい都市であるヴァルハラを、逃走したエックスの探索班達が駆けまわった。
 建物同士の間のゴミ箱の影から、その様子をうかがっている小柄な青いレプリロイドがいた。
 自分を探している探索班達の姿を脅えながら伺い、やがて青いレプリは、彼らに気づかれないように裏通りの闇に姿をくらました。

「…赤いのに続いて、青いのにも逃げられたか」
 シティの建造物の屋上から、右往左往している彼らの様子を眺めている一団がいた。
「この街のお偉いさん方の脆弱さっぷりには、逆に尊敬するぜ」
「それ仕方ないんじゃないの? この街の支配者って、実質マキ・カザマって女の人なんだし。それよりさ、レッド。…青い奴捕まえないの?」
 どう見ても一癖も二癖もありそうな外見の者達だらけの中で、一人だけ妙に浮いている、ヒューマノイド型のレプリが、器用にバレットを指で回しながら、彼ら…レッドアラートのリーダーであるレッドに聞いた。
「忘れちゃいない。おい、野郎ども!」
 レッドが振り返り、レッドアラートの面々に声をかける。
「街中に逃げた例の遺産の封印を解く鍵(コード)を持つ、青いレプリロイドを探せ!! ただし、極力…無傷でな」
 シティ・ヴァルハラを拠点とする、ならず者の集団であるレッドアラートもまた、シティ・ヴァルハラの指導者達同様、シティ付近で発見された偉大な科学者達が残した遺産を狙っていた。
 遺産について彼らが知っていることは、二体のレプリに隠された封印を解くためのコードと、シティの近くに遺産が隠された遺跡が発掘されているということだけだ。
 彼らは、遺産がどういうものなのかはこのさいどうでもよいのである。単純に金銭にすることが目的で、コードを持つレプリについても、遺産を狙う輩に売って利益が得られればいいとも考えている。
 以前、現在赤いイレギュラーと呼ばれているもう一つのコードを持つレプリを捕獲しようともした。
 しかし結果は言わずもがな。レッドの判断が遅れていたら、組織自体を消されていたかもしれなかった。それほどの力を持つレプリに、遺産の鍵を隠すということは…、一体遺産とはどれほどのものなのか。
 赤いイレギュラーとなったレプリとの戦いで、遺産に手出しすることを諦めようとさえもしたほどだ。
 だが一度足を突っ込んだことだ、いまさら引くなどというのはプライドが許さないのもあって、レッドアラートは今回逃げ出したもう一体の方を手中にしようと動きだしたのだ。
 それに情報によると、赤い方とは対照的に、青い方は随分と大人しいという情報が入っている。…赤い方が特別異常だったのかもしれないが。
 問題の青いレプリを探すためにレッドアラート所属者達が散開してから、数分後。
 レッドに通信が入った。仲間からだ。
『アニキ! いやしたぜ! たぶんこいつが例の青い…って、こら逃げんな…あっ!! …っくそー、逃がすな!!!!』
 汚い声と、銃声が聞こえてくる。こうも簡単に発見できたのも、彼らがこの街の裏に詳しいからだ。大体の逃走経路を把握することなどたやすい。
『やべぇ、リーダー、あいつメチャクチャ逃げ足速いっすよ!!!!』
「あーもー、だらしないなぁ。ねえ、どっち行ったか教えて、僕が捕まえるよ」
「おい、アクセル」
「大丈夫だって。儲かったらさ、欲しいもの買っていい?」
「……好きにしろ」
 レッドは、溜息をついて、自身満々な様子のアクセルに言うと、アクセルは笑ってその場から颯爽と姿を消した。

「はあ……はあ…」
 青いレプリは、建物の壁伝いに歩いていた。
 自分を探す探索隊だけじゃなく、見たこともない、見るからにガラの悪そうな者達まで自分を捕まえようとしてきた。必死に逃げて、どうにかまいたらしく、青いレプリは、適当な身を隠せそうな場所にへたり込んで足を抱えた。
 どうしたらいいのか…、そればかりが彼の頭の中を駆け巡り、けれど助けを求める相手もおらず。
 自分が閉じ込められていた部屋の扉が勝手に開いて、どうしてだか誰もいなくて、気がつくと外に出ていて、そして追われて…。
 自分の中にあるコードというものを欲しがって、今にも自分を解体してしまいそうな研究者達の姿が脳裏に浮かび、彼は自分の肩を抱いて、震えを抑えようとした。
 震えを押さえつける代わりに、彼の翡翠の目から透明な液体が零れ落ち始めた。勢いは止まらず、足を抱えてしゃくりあげた。
「大丈夫ですか?」
「!?」
 突然声をかけられて、青いレプリはびくりと跳ね上がった。
 見ると、そこにいたのは、女性型のレプリだった。
「きゃあ、大変! 誰がこんなことを!?」
「え…あ…」
 彼女は、彼の姿を見て悲鳴をあげて、彼のアーマーの傷に手を伸ばした。青いレプリは、ただしどろもどろするしかなかった。
「酷い…、早く手当てをしないと! さあ、立って!」
「あ…、」
 そこで青いレプリは、何か違和感を感じて伸ばされた彼女の手から後ずさった。
「? どうしたんですか?」
 彼女は、困惑した様子で彼を見つめている。
 青いレプリは、自分が置かれた状況のせいで無意識に疑心悪鬼になっていたのか、それとも彼に組み込まれたプログラムの本能なのか、彼は彼女に危険を感じ取った。
「ほ、ほら、早くぅ! 早くしないとまた悪い人達に見つかっちゃ…」
「………なんで、俺が追われてるって、知って…るの?」
「! ……あーあ、しょうがないなぁ、もう」
 一転して、態度を変えた彼女の声が少年の声になり、女性型のレプリの姿が、幼さの残る少年のレプリのものに変化した。
「−−−っ!」
 それに驚いた青いレプリの眉間に、変身を解いたレプリ、アクセルのバレットの銃口が押しつけられた。
「ごめんね。ちょっとだけ痛いだけだからさ」
 そう言って引き金が引かれようとした。しかしその瞬間。
「ーーっ!!!! なっ!?」
 一瞬の出来事だった。
 青いレプリの手が、バレットを握るアクセルの手首を掴んで上に持ち上げたのは。発射されたレプリロイドを一時的に行動不能にさせる弾は、青いレプリのヘルメットをかすって背後にある建造物の壁に当たって弾けて消えた。
 まさかの反撃を受けて一瞬思考を停止させてしまったアクセルの隙をついて、青いレプリは、立ち上がって走り出そうとした。
 しかしアクセルは、レッドアラートの中でもかなりの実力者だ。すぐさま体制を立て直して、先ほど外した同じ弾を青いレプリの背中に命中させた。
 全身を包むように走った電流に、青いレプリは短い悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。
「手こずらせないでよ」
 アクセルは、ふうとバレットの銃口に息を吹きかけ立ち昇る煙を吹き消してホルスターに収めた。
 そして通信をレッドに繋いで、青いレプリを捕まえたことを伝えて、アクセルは地面に倒れている青いレプリに視線を向けた。
 傍らまで近寄り、かがんで青いレプリの顔を眺めた。
「へ〜、意外と可愛い顔してるんだ。ん?」
 アクセルは、苦悶の表情を浮かべて痺れた体を動かそうと呻いている青いレプリの目から流れる透明な液体に気がついた。
 オイル漏れ…だろうかと、何となくアクセルは、その水滴を指ですくい取ってみた。循環液とは違い、脂分がなく、水と同じ手触りの透明なしずくがアクセルの指先を濡らした。
 なんだろうと訝しんでいたアクセルだが、やがて知らせを受けてやってきた仲間に声をかけられ弾かれたように立ち上がった。
「よお、やったじゃねぇかアクセル!」
「へっへ〜、これくらい僕には朝飯前だよ」
 一瞬だけ思わぬ反撃を受けて逃がしそうになったことは言えない。
 そんな会話をしていた彼らは、足元で倒れている青いレプリの異変に気付けなかった。
 普通のレプリならば、丸一日まともに動くことができない痺れをもたらすそれで動けなくなっていたはずなのに、ガタガタを震えていた右腕が、次の瞬間何かの糸が切れたように、一瞬にして変形して…。
「よくやったな、アクセル」
「えへへ」
 あとから来たレッドに頭をなでられ、アクセルは顔を綻ばせた。その様子は、親子のように見える。
 しかしその雰囲気はすぐに一転した。
 それに気づいたレッドが、青いレプリを運ぼうとした仲間に離れろと叫び、アクセルを掴んで自身ごと地面に伏せた。
 直後、変形した青いレプリのバスターから、とてつもない閃光とともに巨大なエネルギーショットが発射され、斜め上空めがけて飛んで行き、左右にあった建物の壁をそぎ取った。その場に崩れ落ちた瓦礫が降り注ぎ、青いレプリは粉じんに紛れてその姿を晦ました。

「……とうとう引き金を引いちゃったのね」
 一閃のバスターショットが空に向かって放たれ、一部の建物がその衝撃で壊れていくのを見て、マキはこうなることをまるで知っていたかのように、そう呟いた。
「…来るわ。あの赤い狂犬が…。せいぜい食べられないように気をつけなさい、青い天使ちゃん」
 マキは、手のひらサイズの、システムの操作機器を取り出して赤いイレギュラーへの警戒態勢の状態にセットしておいた。

 同じ頃、シティ・ヴァルハラの周辺にある密林に、森に埋もれるようにそこに佇む旧時代の建造物の一部の、木の根やツタで出入り口が見えないところから、それらをかき分けて赤い外装のレプリが一体這い出てきた。
 暗い森の中でも、それと分かるほどの美しい金髪を翻して、赤いレプリはシティの方に視線を向けた。
 そしていい獲物を見つけた捕食者のようににやりと口元を緩めると、シティに向かって行った。









⇒つづく


あとがき
 イメージ通りには書けないものですなぁ…。特にレッド達の口調ってどうだったっけ? 悪そうに書けばできるかな。
 さて、エックスさんの苦労はまだまだ続くよ。赤いイレギュラーさんも参戦だよ。

 そしてなんで赤イレさんがあんなところに住みついていたかというと、ヴァルハラ周辺の森は、富士の樹海みたいに磁石が使えないとかそういう力場があって、レーダーに引っ掛からない迷宮のような場所になっている部分があり、赤イレさんが住みついている場所は、そこですね。レッドアラートのようなならず者集団など、そういった世間では鼻つまみもが住みやすい場所が、ヴァルハラ。
 ちなみに、赤イレさんが普段どこをねぐらにしているかは、一部の人達以外は知らないということで。(マキやヴァルは知ってる)










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