ゴミ山で見つけた野良人形?  ペット一匹追加(マスター視点)













 別に天気がよかったからだとか、散歩したかったからだとかじゃない。

 理由などない。それが理由だ。

 とにかく今日は少しばかり外を歩いていた。




 不法投棄など珍しくもない。観光を産業とする国ならいざ知らず、平和ボケしたこの島国で判明すればそういった関係の団体が騒ぐだろうが、それだけだ。

 林を抜けると、油と薬品の匂いがするゴミの小山があり、そこにトラックが荷台を傾けてゴミを投棄している。

 修理するなり、分解すれば使い道のある物ばかりだが、あえて拾おうとは今は思わない(必要なら拾うこともあるが)。




 けれど、今日はそれ以外の理由で俺の目を引いた。

 後から来たトラックの荷台が傾き、先に来ていたトラック同様ゴミを捨てていくが。


 ……袋の一つから人間らしき腕が出ている。
 人形というには、リアル過ぎるくらいの子供の腕だ。

 トラックはそのビニール袋に気づくことなく、捨て終わるとさっさと行ってしまった。

 俺はすべり降りるように林の中から、ゴミの山に下り、目を引いたビニール袋に近づいた。

 ……別に死体が珍しいとか、そういうことじゃない。こんな状態のぶつは見慣れている。作ったこともあるしな。

 ただ何となくだ。それだけだ。


 ビニール袋の隙間からだらりと左腕だけが出ていて、動く気配などない。


「…ん?」

 左腕の二の腕部分に目がいった。


 “02”


 赤い色でそうついていた。


 ……そういえば、カイトの右腕の同じ部分には“00”とついていた。

 なるほど…、そういうことか。

 俺が納得して、軽くビニール袋を蹴ると、微妙なバランスを保っていた袋が山の上から転がり落ちた。
 途中でビニールが引っ掛かり、安っぽい素材のためあっさりと破けて内容物が飛び出した。


 金色…というよりは黄色の髪の毛、白いヘッドホンに白い服(汚れているが)、人間の年齢で14歳くらいの、少年の形をしたボーカロイドだった。
 それが山から転がり落ちると、四肢を投げ出して死体のように動かない。カイトといいこの子供といい、本当に機械とは思えない作りだとつくづく思う。


 ああ…、見覚えのある形だ。
 確か、双子のボーカロイドの片割れだったか…。名前は…まあいい。


 俺は動かない子供のボーカロイドを担いで住処に戻った。
 さすがにカイトよりは軽いが、所詮は機械。この年頃の人間なんかより重かったが、気にせず持ち帰った。




 持って帰った時、カイトが半端じゃなく機嫌を悪くしていたが特に気にすることなく聞いたところ、この子供のボーカロイドはLEN(レン)という名前らしい(製造機種の順でいうと、カイトの弟にあたるらしい)。
 うちに間違って届いたカイトと違い、すでにどこの誰かに起動させられた後で、何らかの理由で強制終了させられてそのまま投棄されたということだろう。
 カイトが言うには、よほどのことがない限りこの状態にならないらしい。…なっているということは、よほどのことがあったということだ。
 別にこのレンを救いたいとか、気に入ったからだとかそういう理由で拾ってきたわけではない。

 ……何となくだ。ただそれだけのこと。
 宅配業者が間違って届けてきたカイトを起動させて手元においているのと同じ理由だ。

 カイトのマニュアルにあった再起動のさせ方を思い起こし、ぶちくさ言うカイトを無視して、レンを起こす。




 ……。

 ………カイトよりも機種が新しいせいか、カイトのマニュアルのやり方ではだめだったかもしれない。

 床に寝かせていたレンに顔を近づけて様子を見ようとしたのだが。

 ……カイトの時にもやられたが、ボーカロイドというのは共通して人の顎を絶妙なタイミングで攻撃するようにセットされているのか…。

 カイトを起動させた時のように、急に目を開けて飛び起きたレンの頭で俺の顎が…。

 俺が顎を押させてうずくまっていると、それを気にせず周囲を焦った様子でキョロキョロと見回したレンが俺の姿を見るなり、ヒュッと息を飲んで俺を見据えたまますごい勢いで壁に後づ去って背中をぶつけていた。

「マスター!! 大丈夫ですか!?」

「………………………………………ます、たー? ………………………………って、……カイト…?」

「レン! 僕のマスターになんてことをするんだ!!」

「知らないよ! 他人のマスターのことなんて!!」

「……本当に、機械とは思えないな…、おまえ達は」

 俺が顎をさすりながら呟くと、レンが俺を睨んできた。
 まるで野良猫のような、そういうロクな目にあってないこの世の全てを警戒した目だ。
 動物は嫌いじゃないから、思わず口元が緩んでしまったら、レンがビクリッと震えて嫌そうな顔をして、ものすごい引いていた。
 ボーカロイドごとに性格が違うとは聞いてはいたが、なるほど、このレンはそういう性格のようだ(捨てたマスターに原因があるのだろうが)。

「取って食うわけじゃない。そうじゃなくとも食えないしな。おまえ達は」

「ぼ、僕…マスターになら食べられてもいいです…」

「うげ…、あんたそういう性格のバージョンかよ…」

「ふーん…。同じカイトでも性格が違うのか」

「一緒にするなよ! 俺は違うからな!! てゆーか、なんで俺を拾って再起動させたんだよあんた!! カイトがいるんなら必要ないだろ、なんで拾った!!!!」

「何となく」


 ……そう言ったら、レンは緑色の目を見開いて、口を開けたまま固まった。(絶句したというのか…)




 なるほど………一人で十分とか言われて捨てられたということか。




「…悪いけど、俺は感謝何かしないから」

「そう思うなら、そう思えばいい」

「なっ!?」

「ここにいたければいればいいし、いたくないのならいなくてもいい。好きにすればいい」

 俺は立ち上がると、ソファーに座ってテレビを付けた。
 レンはただ茫然と立ち尽くしていたが、しばらくすると俺の後頭部にレンが睨みつけてくる視線を感じた。

「あんた…馬っ鹿だろ…」

 などと、ブツブツ言っている声が聞こえてきた。

 結局のところ、レンは俺の住処にいることにしたらしい(カイトは反対していた。壊すなとは一応忠告はしておく)。

 手書きの楽譜を渡してやったら、どうしたらいいのか分からないという顔をしていたが、俺の視線に気づくと楽譜を握りしめたまま走って逃げた。途中でこけながら。…捨てられた時に関節がいかれたか?

 キーボードを弾き、カイトの調教をしていたら、戸の隙間から様子を窺っていた。さりげなく手元を見てみれば、クシャクシャになった楽譜があった。

「……機種が違うなら、当然声も違うんだろうな?」
「! …ええ。リンとレンは双子ですから同じ音源なんですけど、得意分野が分かれるようそれぞれ音質が違うんです」
 急に音を止めてわざとらしく、横を向いてから言うと、カイトが不機嫌になってだがそれでも答えた。
「ふーん…。どんなものか…」
「あの…マスター…、まさか…レンの調教をする気ですか?」
 カイトがぎこちなく言った言葉に、戸の向こうにいるレンが反応していた。
「おまえとの違いを見る」
「ぼ、僕だけじゃ不満なんですか!? それにレンは前のマスターのものですから言うことを聞くかどうか…」
「レンを使ったところで、おまえを捨てるとは言っていない」
「マスター…!」
「レン。…試させろ」
 納得いかないカイトを置いといて、レンを手招きすると、レンは目を見開いてしばらく俺を見ていたが、急に我に返ると踵を返して逃げ出してしまった。こけた音が聞こえた。やはり関節が悪いのだろう。

「マスター、ダメなようですよ?」
「機会を見て、すればいい」
「! …何となくって言っている割には大事にするんですね……?」
「何となくだ。…ところで、おまえ達ボーカロイドは関節がいかれても平気なのか?」
「マスター、話は終わっていません!」
「まあ…、所詮は機械か」

 どんなに人に近づけて作られても、無機でしかないということだ。
 ボーカロイドにとって痛みはデータであり、生物が生存のために発達させた痛感とはかけ離れている。比べられるはずもないが、それはそれであれらにとって有利なことではあるだろう。痛みで苦しみ、動けなくなることはないのだから。

「…メンテナンスでもするか」
「えっ! ままままま、マスター!? 本気なんですか!」
「おまえもしてやる」
「! マスター…v」

 俺は立ち上がって、レンとカイトのメンテナンスをする準備をすることにした。













 


あとがき

 マスター何気に酷い。
 やさぐれというか人間不信なレンになってしまった…。
 レンのマスターの第一印象は、変人または変態と思われたようです(笑ったらドン引きしているので)。(←カイトいわく、マスターの笑顔は直視できないらしい(眼力があるので))

 でもって、察しの良すぎるマスター。すでにレンの心の傷の原因を見抜いた。
 だけど優しくしてあげるとかそういうことはしない。本当に気まぐれで拾っただけ。
 でもこのマスターとの出会いは、このレンにとって大きな転機になります。

 実はこの話のレンは、一回強制終了しているけど、まだ一度もまだ歌ったことがない無調教です。
 でもってどうやら不調らしい。人間らしい作りですけど、どこまでいっても機械だというのを強調しようと思ってそうしてみた。

 次で一応メンテナンスをする予定。ちょっとエロいかも?






 

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