60000ヒット記念企画で、ナナシ・ノ・ゴンベータ様のリクエスト『TOA+戦国BASARA2ネタで、数百年後のオールドランドに帰還したPTたちが途方にくれる話



(※TOA+戦国BASARA2ネタの最後を実際こうするかどうかは未定なので、これは別の作品としてお読みください)









『此処に来るにはあと三回死んでおいで』(お題提供:DEVIOUSDDDS!












「国がないなら裁けないな。じゃ、俺帰るわ」

 ルーク…、いや別次元に存在する、オールドラントと始まりと終わりを共にするもう一つの世界BASARAの守護神ルークが、ただそれだけ言って姿を消した。
 残された者達は、ただ一人をぬいて茫然と立ち尽くすしかなかった。
 BASARA界とオールドラントを繋ぐゲートの出入り口の一つである場所から出てきて、目にしたのは、最後に目にしたキムラスカの風景ではなかった。
 見慣れぬ人々の格好、建造物、あちこちに見られる絵や文字の看板のデザイン。
 全てが自分達の記憶にないものだった。
「なるほど…、だから彼らの方からしか来れなかったというわけですか…」
「どういうことだ…?」
 ジェイドがため息とともに吐いた言葉に全員の視線が集まる。
「簡単な話ですよ。私達が住む世界と、彼ら…BASARA界とでは時間の流れが全く違うのでしょう。あちらで滞在していた時間はほんの十日程度でしたが、こちらでは数百年ぐらいの時間に相当した。ですから最後に見た景色と全く違っていて当然なんですよ」
「そ、そんな、馬鹿な!!!!!????」
「事実です。これまでBASARA界側からしか、互いの存在を確かめ合う使者がこちらに来なかったのは、我々の方から行った場合、こういう事態になるから。BASARA界に関する書物に、彼らが神のように描かれていたのも、人智を超えた肉体の強さや音素を操ることに長けていたことだけじゃなく、その時間の流れの違いのせいであたかも年をとっていないように見えたからなのでしょう」
 けれど実際には、文明の違いはあっても、成長速度も時間の流れ方も大差ない。
 恐らく別次元の間をつなぐゲートに問題があるのだろう。
 今回の場合ルークの差し金という可能性もあったが、ルークの様子からしてもそれはないだろう。むしろルークや、BASARA界の住人達は早く戻れと勧めてきたのだ。
 …あえてそのことを言ってこなかったのは、例え言ったとしても自分達が信じようはずがないと思ったのか、もしくは自らこちら側に来てしまった時点でもう手遅れだったから言わなかったかでいうと、恐らく両者とも正解だろう。
 自分達が出会った、ルークを連れ戻すことを目的にやってきた真田幸村を始めとしたBASARA界で1、2を争う強大な力を持つ強者達の場合、自分達の守護を裁くべく奪っていこうとしていることに対しての、嫌がらせも含まれていた可能性も大いにあるが、こちらがそれに対して文句を言える立場ではない。
「じゃ、じゃじゃじゃ、じゃあどうするの、あたし達どうなっちゃうの!?」
「アニース。過ぎた時間は戻せませんよ?」
「大佐、何を呑気に言っているのです!! キムラスカは…、キムラスカはどうなったですか!!!!」
「いや〜、それは調べないと分かりませんね。……このままここにいても埒があきませんし、どこかこれまでの世界の歴史が分かる場所を探して、調べてみましょう」
「ならさっさと行くぞ!!」
「…何かいい方法が見つかればいいけどな」
 ガイがそう呟くと、それを聞いたジェイドは眉を微かに上げた。
 いい方法?
 そんなものが見つかるはずがないだろうに。
 一同は、見知らぬ場所と化した、恐らく元キムラスカのバチカルだった場所を歩いた。
 通行人に時折場所を訪ねながら、自分が達がルークを追って行った間にあった歴史が分かる場所を目指した。
 人々は自分達を奇異な目でジロジロと見ている。
 時折自分がルークを貶す発言が出ると、それをはっきりと聞いた者は、何て罰当たりな!!っというあからさまな軽蔑の眼を向けてきた。
 そうした視線だけで、今のこの世界が二つの世界が存在していて、それぞれの世界には、世界の安定を司る守護の存在がいることを当たり前として尊いものとして称えているというのが十分見受けられた。

 そうこうするうちに、古ぼけた一軒の古本屋に辿り着いた。


「いらっしゃい…」

 入ると、しわがれた老人の声が出迎えた。
「すみません。ここに来ればこれまでの世界の歴史が分かると聞いて来たのですが…」
「お客さん、どこから来なさった? 観光とは珍しいね…」
 本に埋もれるようにそこに座っていた老人が、皺だらけの口元を少し上げて笑った。
「いいからこの国であった歴史を教えやがれ!!」
「教えてください! いったいこの国…キムラスカで何があったのですか!!!!」
「ふむ…」
 老人はまくしたてるように聞いてきたアッシュとナタリアの様子に、笑みを消して、しわしわでたるんだ瞼を片方だけあげた。やがてため息とともに、まあよい…と言葉を零した。
「…キムラスカという国はとうに滅んだよ。御世継ぎの王子と、その正妻となるはずじゃった王女が、ある日突然失踪したことでな」
「な…!!!!」
「真実はどうかは誰にも分からんが、何でもその代の王や大臣たちの声、言葉の一切を無視して姿を消したそうじゃ。随分勝手なことだ。そのせいで正当な世継ぎを失ったキムラスカは、遠縁の者が継いだが結局十年とせず崩壊した」
「そ…それは、わたくしたちのせいではありませんわ!!!!!」
「そうだ! あれはあの屑が…」
「二人とも落ち着いて!」
「何もお前さん達のせいだとは言っておらんじゃろ?」
 激しい焦燥にかられる二人を、ティアが落ち着かせようとしている様に、老人は首を傾げた。
「キムラスカのことはよく分かりました。…マルクトという国について話を伺ってもよろしいですか?」
 老人が語ったキムラスカの末路に、それぞれ喚く二人をあえて無視し、ジェイドが聞いた。
「マルクトか…。あの国は、今から百年ほど前まで続いたが、国内での分裂が激化して、解体。その後は元マルクトの領土内に小国が散らばっているという感じじゃな」
 今でも小競り合いが絶えておらん、と、老人は付け足した。
「…そうですか」
 ジェイドは、眼鏡を押さえて深く息を吐いた。
「では、もう一つ…。ダアト…ローレライ教団は?」
「かつてダアトと呼ばれる預言を崇拝する教団の総本山であったパダミア大陸は、栄光の大地の名を架した場所から、地核に長く閉じ込められ続けていたこのオールドラントの守護ローレライが解放されてから、数年後に大規模な地殻変動が起こってな。瞬く間に人の住めぬ地となり、その後数百年を経て、今では大陸がそこにあったという面影すら残っておらんありさまじゃ」
「では、ローレライ教団もその時に…」
「ああ。あまりに突然の災害で、住人のほぼ全てが命を落としたという伝記が残っておるくらいじゃからな」
「そんな…あんまりだわ!!」
「お譲さん。どうすることもできんことというのはあるんじゃよ」
 信じられないと声をあげるティアに、老人は首を振った。
「……しかし先ほどからお前さん達は、妙じゃな? まるで自分達のことのように…」
「そんなのあたりまえじゃない!! 私達、そんなことになる前の世界にいたんだもん!!!!!」
「……ほう?」
 アニスが叫ぶと、老人は下がっていた瞼を両方ともあけて、口元を吊り上げた。
「ホ、ホホ…、くっく…、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
 突然老人が豹変したように大声をあげて笑い出したので、全員が驚いた。
「ふ、くくく…おまえ達が…? おまえ達が数百年前に王の制止も聞かず、異世界へと消えた愚か者達じゃと?」
「な、愚か者って…、俺達は…」
「私達はルークを捕まえて裁くため行ったのよ!!」
「では、何だという? 当時の王だけがこうなることを知っていたのに、それを聞かず、しかも世界の命運を握る守護を奪うことを目的に行ったおまえ達を、誰が崇高だと言うのだ!?」
「何が守護よ…、あんな奴…!」
「それを今のこの世界に生きる人間達に言ってみるがよい。瞬く間におまえ達はこの世で最も汚らわしい愚か者と指を指されて行き場などなくなるじゃろうて!!!!」
「じじい、てめぇさっきから勝手なことをぬかしやがって!!!!」
「勝手なのはどっちじゃ? …散々止めたではないか、おまえ達の身内は…」
「? ……あなたは…」
 ジェイドが、何かに気づき呟くと、老人はゆっくりと立ち上がった。
 すると老人の体が消え、代わりに現れたのは金色の光の塊。
「!! おまえは…!!!!!」
 アッシュが真っ先にその正体に気づいて叫んだ。

『ようやく戻ってきたか。愚か者達よ。我が名はローレライ。この世界の安定を司る守護である』

 ローレライが低いが気高い響きのある声で言った。

「ローレライ!?」
「なんで!?」
『ふん…。何一つ変わっていないようだな。あちら側で少しは勉強してきたかと思ってみれば、何もなかったようだ…全く。こんなことでは、ルークとルークの守護下にあるあの強く気高い強者達に申し訳が立たん』
「何を言っているのです!! っ…、もしやわたくし達がこのような目に遭わされたのはルークの…」
『馬鹿もの!!!!!』
 ナタリアがルークのせいだと言いかけたのを、ローレライが一喝して黙らせた。
『まっっっっったく! そなた等は一つ口を開けばすぐにルークのせいにしおって!! 少しは己のやってきたことを振り返ろうという気はないのか!!!! ああ…、それもこれも全て我のやり方が悪かったのだ…。すまぬルーク…、強くかつ輝き溢れた強者達よ…』
「そんなことより、ローレライ! 俺達をもとの世界へ戻せな…」
『ないわ! ってか、できん!! できたとしてもおまえ達になんぞやってたまるか!!!!』
 ガイが言いかけた言葉に、間髪入れずローレライが怒鳴り散らして答えた。
「やはり過ぎ去った時を戻すことは、守護といえどできないのですね?」
『逆に時を進めるということもできん。我々はあくまでも世界が誕生から死までの間を取り持ち、維持するための力でしかない』
「…そうですか。少しでもルークを疑ってしまいましたが、答えが聞けて、それが間違いだったと分かりましたよ」
『……』
 ジェイドの表情に、言葉に、ローレライは何か思うようにユラユラと揺れた。
『おまえ達の罪は…、いやそれまでの世界の歴史は、我が罪。全ては我が至らなかったがゆえに起こった過ちゆえ、我にはおまえ達を裁く資格など無い』

 だがおまえ達にも、ルークを裁くこともできん。

『以後、おまえ達のBASARA界への通行を禁止する。すでにおまえ達を知る者のいないこの世界で、生きるがよい…』


 ローレライは、そう言葉を残すと、姿を消した。




 自ら命を絶って逃れることは、許さん…




 最後にその言葉が耳に、心に響くようにして残った。












***




「……」
 甲斐の虎と呼ばれる、武田信玄の屋敷の縁側で、ルークは空を見上げていた。
「んぐ…、ルーク殿…、どうされました?」
 ルークの隣でムシャムシャガツガツと団子を食べていた幸村が聞いてきた。
「ん? 別に…」
 ルークは視線だけ幸村に向けて言った。
「もしや、あの者達のことを考えていたのですか?」
 途端幸村の表情が変わった。
 ルークは胡坐をかけなおすと、膝に片肘を乗せて深く息を吐いた。
「事情が事情だったとはいえ、あっちに残してきたものは多いからさ…」
「ルーク殿…」
 幸村は表情を引き締めて、縁側に放り出していた足をあげて、縁側の木の床にルークに向かって正座した。
「ゆき…」
「己に降りかかった火の粉は、己の力で払うのが道理でござる。ルーク殿が気にかけることではござりませぬ!! あの者達が、こちらに来たことに後悔しようと、それはあの者達の責任。断じて、ルーク殿の責任ではありませぬ!!!!」
「幸村…」
「出過ぎた真似を承知の上で、どうか…」
 そう言って深く頭を下げる幸村に、ルークは驚いて目を丸くしたが、すぐに苦笑して、幸村の名前を呼んだ。
 顔を上げた幸村を手招きし、おずおずと近づいてきた幸村の頭を、ルークは抱え込むように抱き締めた。
「な!? る、ルークどのぉ!!!!???」
「なんか今こういう気分になったから、しばらくこうさせろ。…あー、でも足りねぇなぁ」
 ルークは、顔を真っ赤にさせて硬直している幸村を抱き締めたまま、視線を座敷の方に向けた。
「さーすけ。いるんだろ? おまえもギューってしてやるから、こい」
「…どうしちゃったの、ルークさん? 随分気前がいいじゃん?」
 雨どころか大嵐でも起こす気?と佐助が言うと、ルークは幸村の頭に頬を擦り寄せながらにんまりと笑った。
「何か今そんな気分なんだよ。今信玄はいなかったな…、帰ってきたらしてやろっと。んー、それだけじゃ不公平だな。よし!」

 何だか今、とっても俺が守護する世界にいる奴ら全員、ぎゅ〜〜〜って抱きしめたい気分だ!!






 ……でも、ふと思う。

 今頃ローレライが、胃(実際はないけど)に穴を空けるようないらん苦労をして、こっちの住人のように(ローレライいわく、強くかつ美しく、個性豊かで気高さに溢れた人間)しようとしているんじゃないかと思い、んな真似ごとしなくていいからそっちのやり方でやってくれと言いに行かなければならないだろうか?

 ……少しの間だったとはいえ、一緒にいた同行者達は何をしているだろう。




「……守護がウダウダ考えちゃいけないな」




 レプリカルークとして、オールドランにいる間に、どうやら自分を構成する精神は随分と人間らしくなってしまったらしいと、ルークは人知れず苦笑いを浮かべた。








あとがき

 このリクは、すごく書きたくて、受けた当初からずーーーーと仕事中にいろんな妄想を膨らませてきましたが、結果的にこういう形になりました。
 やはりネタ上、守護神ルークと同じ守護神としているローレライは出した方がいいなと思い出しました。

 ルークサイドの場面は、信玄のところにしました。武田側はなんか書きやすい。
 ルークが不在の間、BASARA側は色々グチャグチャになっちゃったから、復興が大変で、ルークはあちこち飛び回って傷ついた世界を修復させていて、武田のところはその途中でPT達が来たので一時中断、その後戻ってきて再開という感じです。のんびりくつろいでるだけのように見えるけど、その土地にいるだけで、回復ができるということで。
 そしてローレライは、BASARAキャラ達のことが大好き、てか羨ましい…というか。
 うちの世界もああだったらな〜って思ってます。ルークは自分とこの連中を褒めてくれるのは嬉しいけど、真似してもできないぞ?って、おまえのとこもこっちにはない良い所があるんだからそれを磨けってローレライをやんわり止めます。

 最後の方のはぐはぐは、もうルークは自分の守護する世界が好きでたまらないっていうのを出したかったんですが…いまいちな感じが否めない(だからといってオールドラントが嫌いではないです、断じて。基本的に守護は博愛)。


 ナナシ・ノ・ゴンベータ様、このような出来になりましたがいかがでしょうか? このようなものでよろしければ、ナナシ・ノ・ゴンベータ様だけお持ち帰りください。








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