志貴様からにリクエスト
『被験者ルーク、レプリカアッシュ。人修羅×半人半魔ルークで、同行者+灰+敵に厳しめで断罪物(グロ有りでも可)。ルークは誘拐された後、レプリカ情報を抜かれたために音素乖離をおこしかけたが、ローレライが干渉して助かる。その時に人修羅も干渉していて、結果ルークは半人半魔になり反動で一時的な記憶喪失になる。人修羅の干渉は誰にも感知されなかった。人修羅は、ルーク至上主義。何故か知り合いな黒ピオニーと黒アスラン。キムラスカ・マルクト上層部捏造常識人化。ナタリアは捏造してもしなくてもどちらでも。人修羅×ルークのいちゃつき場面はギャグ混じりで、裏的要素を盛り込むことと、仲魔の出演を希望













『計算的な鬼ごっこ』(お題提供:pulmo

























 満月の夜。
 ファブレ家の屋敷に、ひとりの訪問者が来た。
 襤褸切れの布を頭から被っているその訪問者の来訪を、誰も知らない。いや気づいていない。
 なぜならこの人物は、人間ではないのだから。
 やがてその人物は、屋敷の庭に作られている小さな住人のもとへ辿りついた。
 音もなく壁をすり抜けて部屋に侵入すると、十歳程度の子供がスヤスヤとベットの中で眠っていた。
 来訪者は、頭に被っていた布を外し、子供の寝顔を覗き見た。
 綺麗過ぎるため、作り物ではないかと思われる顔が、慈愛に満ちたものに変わった。
 慈愛など似合わない存在、すなわち悪魔と呼ばれるものである来訪者は、バサッと身に着けていた衣を脱ぎ去った。
 細い少年の体つきに走る模様が異様な光を放つ。
『ルーク』
 金色の眼がスッと細められ、悪魔の少年の腕がいまだ眠り続けている幼子のルークの体を抱きしめた。
 途端、ルークはパチリと目を開けた。
 何度か瞬きをして、ルークは自分の上に覆いかぶさっている悪魔の少年の存在を認識した。
「…ひとちゅらー」
 ルークは、舌足らずな声で悪魔の少年の呼称のひとつを口にして嬉しそうに笑った。
 腕の中でキャッキャッと無防備に自分の来訪を歓迎してくれるルークに、人修羅と呼ばれる悪魔である少年は、くすりと笑った。
『さあ、ルーク。何をするかもう分かってるよね? もう慣れただろうけど、じっとして』
 そう言って人修羅は、ルークの頬を撫でると、ルークは人修羅の手の冷たさが気持ちいいのかその手に顔をすりよせた。
 人修羅は、満月の夜になると、こうしてルークのもとを訪れる。
 通常なら人前に現れることは滅多にない悪魔であるにも関わらず、人修羅はこうしてわざわざ魔界の底から出向いてくるのは、すべてルークのためだった。
 ルークは、つい最近死にかけた。
 屋敷から誘拐され、レプリカというものを作るために情報を抜かれ、その結果音素の粒になってしまいそうになったのだ。
 それをいち早く救ったのは、ルークと同じ本質のローレライと呼ばれる第七音素の集合体だったが、実は人修羅もルークに救いの手を差し伸べていた。
 なぜそんなことをしたのか、その理由について人修羅は、もうこのさいどうでもいいと思っていた。
 人であることをやめてどれほど時間が経過したのか自分で覚えていないが、いつの間にか人修羅にとってルークという存在がなくてはならないものになっていた。本人もそのことに酷く驚いている。
 自覚してからの人修羅の行動は早かった。
 死の淵から引き戻されて記憶を失い、しかも悪魔の力を注がれたことで半ばこの世のものではなくなったルークの体は、非常に不安定でいつ崩壊してもおかしくなかった。
 満月の夜の訪問は、それを改善するためだ。直接精を注ぐことでルークの体は、魔力を受け入れ、死の影が残っていた細胞のひとつひとつを活性化させる。
 満月の夜の日を選んでいるのは、単純に魔の力がもっとも高まり、生存本能を強めるからである。実際、狼男などの月と強い結びつきのある魔は、満月の夜は、ほぼ不死身だ。
 満月の夜の訪問も、もう何度目なのか数えるのも億劫になる頃、ルークは、人間の年齢で17歳を迎えた。
 年齢を重ね、人修羅のマメな魔力の調節を受けたルークは、立派に成長した。我ながら素晴らしい“作品”が出来上がったと、人修羅も納得の出来である。
 ただ、記憶だけは戻らないまま。
 ルークの婚約者であるナタリアがいくらがんばっても無駄だ。
 ガイという男が親友として接してきても、人修羅が満月の夜の逢瀬で築いた絆は、揺るぐことはないだろう。
『ルーク。おいで』
 恒例となった満月の夜の逢瀬で、人修羅が手を差し伸べれば、ルークはうっとりと妖艶な笑みを浮かべてその手を取る。
 長く伸びた金色混じりの赤毛を指で絡め取り、人修羅は、自らが手がけた半人半魔に口付けを贈る。
 この子の身も心も、すべて自分のモノ。
 身も心も、すべてを己に捧げると誓いを立てる者達が周りにいるのが目の当たりだったのに、なぜこんなにも違うのだろう。
 どうしてこの子だったんだろう。
 でも、もうどうでもいい。
『ルーク…、愛しているよ』
 今ここにある真実だけがあればいいのだから。




***




『……と、いうわけなんですよ』
 人修羅は、ずずっとお茶をすすりながら、ピオニーにこれまでのこと(ルークのこと)を語っていた。
「ああ…、なるほどな。どうりで緩みきってるわけだ。まったく、恋ってやつは、人も悪魔も変わらないんだな、なあ、アスラン」
 ピオニーがうんざり気味にソファーに座っているのは気のせいじゃない。
「昔の初恋相手をいまだ忘れられず、皇族の血筋を絶やしかけてる陛下が言うことではないと思いますが?」
『それは、言えてる』
「いいじゃないか! 皇帝だって恋ぐらいしたいんだぜ!」
 アスランと人修羅に指摘されて、ピオニーがテーブルを蹴り飛ばしそうな勢いで立ちあがって叫んだ。しかしそんなピオニーに対してどこ吹く風と動じないアスラン。慣れたものである。
「まあ、それはおいといてだ…。人修羅殿、なにか話があって来たんだろ? 何の用だ?」
 ピオニーが話題を変えた。
『そうでしたね…。本題に移りましょう』
 人修羅は、金色の眼を細めて、微笑んだ。
 人修羅は、マルクトの皇帝ピオニーと、ちょっとした知り合いだ。
 そのことを知っているのは、アスラン・フリングス少将だけである。
 ピオニーは、非常に個性的な人間だ。人修羅が人修羅になった時に経験した世界の創世を目指した人間達の戦いの時にいた人間に匹敵する素質がある。
 ミクロ経典を渡して受胎を引き起こさせようか、などというやばい考えが過ったが、またの機会にとっておくことにした。
『この星は、もう間もなく滅びる』
「いきなりぶっとんだ話だな、おいっ」
『ユリア・ジュエが詠んだ預言の強制力によるものだ。彼女は、二千年後に、オールドラントが滅びるというクジを引き当ててしまった。だから滅ぶんだ』
「そんなこたぁ、俺たちゃ知らないぜ? ……まさかと思うが、ユリアは、怖くなって後に残される人間に丸投げしたのか?」
 ピオニーの言葉に、人修羅は静かに頷いた。
 ピオニーは、頭を抱えて最悪だと声を漏らした。アスランも呆れているようだ。
「世界を救ったとされる聖女が、自分の責任から逃げた臆病者だったとは……」
「いや、預言に頼り切ってる人間すべてだ。だが…、まあ、ユリアも所詮は人間だったって思えば責められねえなあ。俺だったらユリアと同じことしてたかもしれねぇし。で、人修羅さんよぉ、混沌の悪魔のおまえが、わざわざ魔界から出向いてまで、この星の滅亡を伝えに来たのは、ルークのためか。そうなんだな?」
『ルークは、半人半魔で、魔界に連れて行くには未熟すぎる。ルークを成熟させるには、まだ時間がかかるから、この星がなくてはならない。滅んでもらっては困るんだ』
「それで俺達にどうしろっていうんだ?」
『預言通りになるのを防いでもらいたい』
「ほお? 具体的な案はあるのか?」
『預言には、アグゼリュスの消滅をきっかけに、キムラスカとマルクトが戦争をして、キムラスカが勝つ、ということになっている。まずこれを覆してほしい。けど、アグゼリュスは、もう限界のようだから、消滅するのを防ぐのはムリだ。それに、もしも消滅を防げたとしても、なりふり構わず預言保守派が戦争を始める理由を探すだろうから、キムラスカに勝つことだけを考えてほしい。それも“完全勝利”で……』
「……徹底的に潰せというのか。たったひとりの子供のために、そこまでやれって? いくらあんたの頼みでも、割に合わないな」
 戦争で一番損をするのは弱い民なんだぜとピオニーが国を治める皇帝としての顔で言うと、人修羅は。
『もちろん、タダでやってもらおうなんて思ってはいない。君は、友人だ。それに、この国のことも気に入っている』
「そいつは、嬉しいな」
『やってもらえるか?』
「魔界の王の助力があるんならいいぜっ。乗った」
 ピオニーは、賢王というあだ名とは程遠い、悪い笑みを浮かべて人修羅の頼みを承諾した。
 横にいたアスランは、自分が仕える主が悪魔とやりとりをする光景を黙って見ていた。
 綺麗事だけでは、何もできないのが現実だ。
 軍人であるアスランは、それを身を持って知っている。
 世界は、人知れず、人ならざる者が介入した暗黒の時代を迎えようとしていた。




***




 ピクシーは、呆れていた。それはもう小さい体に見合わない大量の息が出るほど呆れていた。
 このピクシー、一見すると妖精の中でも特に弱いピクシーと同じだが、実は人修羅がまだ混沌王を名乗る以前から彼の仲魔として行動を共にしていた、側近中の側近といえる強大な力を持つ悪魔だった。
 そのハイパーなピクシーが周りの下っ端の悪魔達が心配してオロオロするほどドンヨリしている。
 原因は、何を隠そう混沌王たる人修羅だ。
 近頃人修羅が頻繁にアマラ深界を留守にして、オールドラントという惑星がある宇宙に足を運んでいる。
 まあ、悪魔を統べる王だって息抜きは必要だと思うし、王が喜ぶ姿が見れるのも、更に自分達の利益になるようなことがあるのなら喜ばしいことだ。
 ……ピクシーが溜息を吐いているのは、人修羅がオールドラントに足を運んでいる理由のせいだ。
 背徳や悪は悪魔達にとって甘い蜜だ。
 人修羅は、オールドラントで何やらお気に入りを見つけたらしく、それのためにわざわざ次元の壁などを跨いで足を運んでいるのだ。人修羅が楽しんでいるのはいい。いいの…だが……。
『ああも見せつけられちゃうとねぇ……』
 ピクシーがうんざりしているのは、人修羅が尋常じゃなくそのお気に入りを可愛がっているからだった。
 なまじ悪魔の王なだけに与える影響力が強すぎて、ピクシーのみならず人修羅の直属の配下達までげっそりしているほどだ。ピクシーはまだいいが、さらにその下の悪魔達の方が重体だ。
 その辺にゴロゴロと死体みたいに転がっている下っ端悪魔達をちらりと見て、ピクシーはまた大きな溜息を吐いた。
『もうちょっと、自重してもらいたいわね…』
 恋は盲目とはうまい言葉があったもんだ。だって周りが見えなくなるんだもの。

 ため息を吐きっぱなしだったピクシーだが、問題の種になっている人修羅からの呼び出しがかかることになる。
 久しぶりの現世であるがあまり嬉しくないピクシーは、腰に手を当てて人修羅をジトっと睨む。
『…機嫌悪いな?』
『どこのどなたのせいでしょうねぇ?』
 アハハハっとピクシーは、引きつった笑いを上げながら黒いオーラを纏っていた。それを見た人修羅は、首を傾げていた。
『留守を守ってくれていたことは感謝してるよ。だからその…』
『分かってるわよ。何年あなたの仲魔を務めたと思ってるのかしら? 我らが混沌王様』
 ピクシーが忠実な仲魔としての態度に切り替えた。
『その呼び名は、あまり好きじゃないな』
『何の肩書きもない王様じゃ下々が納得しないでしょ。いい加減、慣れて、ね?』
 この会話はもう数えきれない年数繰り返されている。元人間の悪魔で、しかも悪魔の王になった少年は性格上そういう臭い肩書は受け付けないらしい。
『やれやれ…。で、君を呼んだ理由だけど…。君にはナタリア王女に化けてもらいたい』
『王女様に? なんで?』
『子供の頃の約束を思い出せって屋敷に突撃してくるのが鬱陶しくて、ルークがだいぶストレスを溜めてるんだ』
『そう…。それで私にその王女様のドッペルゲンガーやらせて急に人が変わったように優秀な王女様になったって周りに思わせてとうの本人にはやった覚えも心当たりもないって混乱させるのね?』
 ある意味二重人格が勝手に行動しているような、それだ。
 二人目のナタリアが成果を出せば本物のナタリアの信頼は失墜し、やがて精神を摩擦していく。自分が本当に自分なのかという混乱だ。自分のことが分からなくなれば、廃人なり、自殺なりしてその立場を奪ってしまえばいい。そして適当なところで消えればいい。適当に死んだふりするか、行方不明にでもなってしまえば時間と共に忘れられていくのだから。
 ナタリアのことは人修羅にとってどうでもよかったのだ。ただその存在が愛する者の害になっているからそんな仕打ちをするのである。
『OK。引き受けたわ』
『それと、ビャッコとアトロポスとラケシスとクロトを連れて行く。あと、トールに妖鬼の軍を率いてマルクト帝国の援軍として参加してもらいたいから準備をしておいてくれと伝えておく』
『あらま…、雷神と鬼の軍って…、少し懐かしい組み合わせね』
 ピクシーは、かつて人修羅と出会うきっかけとなった世界が生まれ変わる途中経過の姿であったボルテクス界のことを思いだし、唇を指でなぞりながら妖艶に笑った。
『なつかしい?』
『遠い昔の事よ。別に気にすることじゃないわ』
 人修羅は、もう忘れてしまっているらしい。まあ、何かのきっかけでふと思い出すことはある。そういう時は、本拠地のアマラ深界の深層の片隅で物思いにふけている。少年が人から悪魔となり、そして数々の出来事を体験して、やがてボルテクス界という卵を食い破って生まれて来た混沌の悪魔へ成長を遂げたのだ。あそこには彼にとって友人と呼べる人間達や教師などがいたのだ。悪魔でありながら人としての魂の性質も備えている混沌の悪魔であるから、思い出すたび一々そういう悪魔らしくないことをしているのである。
『ま、そういうところが魅力ではあるんだけど…』
『何か言ったか?』
『何でもないわ。行きましょう』
 そしてピクシーは、人修羅の命令通りナタリアに化け、ナタリアのドッペルゲンガーのような形で立ち回った。
 気が強く、それでいて貴族や臣下達からはその行動力が起こす数々の問題のせいで陰で疎んじられていたため、ピクシーが演じるナタリアが王女らしく、それでいてきちんと結果を残す真の意味で国と民のことを考える王女として立ち回ったため、本物のナタリアとのギャップから徐々にナタリアがやっと王女として自覚を持ち、才能を発揮した、そして以前のナタリアの立ち振る舞いをするのは遊びみたいな冗談だという風に見られるようなっていった。
 本物のナタリアは、必死に自分じゃない自分がいることを訴えたが、人というのは自分の目から見て良いと思う方を本能で選ぶ。誰にも信じてもらえない、そして本物であるはずの自分が冗談で演じているだけの偽りだと見られ、断じられ続けるうちに、気が強かった彼女の精神は摩擦し、現実と非現実の区別が分からなくなっていき、やがてピクシーによって誰も立ち入らない地下室に押し込まれ、本当に入れ替わられてしまうのだが、それはもう少し先の話である。




***




 人修羅は、ルークの自室で椅子を借りて座って眺めていた。
 床に伏せているビャッコに抱き付いて、モフモフと上質な毛を堪能しているルーク。それを人修羅が眺めていたのだ。
 鼻血を垂らして…。
『…主(あるじ)……、鼻…』
 ルークのペット兼護衛として呼ばれて来たビャッコは、そのままの体制で主人を心配した。
 話には聞いてはいたが、自分達の王が赤毛の少年にすっかりご執心だというのを間近で見て、これは確かに色々とダメだとビャッコは思った…。
 人修羅の命令に反抗するつもりはないし、一心に懐いてくるルークに悪い気はしない。それどころか人修羅が直々に手を加えた半人半魔とあって、マガツヒの香りは極上で、絶対食べたら美味い!っていうのが嫌でも伝わってくるものだから、涎が出そうになるのを堪えなければならなかった。なのでビャッコはある意味で忍耐が試されていた。
 だって、ルークが美味そう…なんて口になんて出したら、間違いなく人修羅からスキル“貫通”込みの拳が飛んでくるのは間違いないからだ…。そんなことになったら一撃で死ねる自信がある。
 そうこうしていると、部屋の外から男の悲鳴が聞こえた。若干裏返り気味なのがちょっと気持ち悪い。
「またガイかー」
 ビャッコの背中に覆いかぶさっているルークが悲鳴の主の名前を口にした。
「あいつ懲りねぇよな」
『ただのマゾなだけだ』
「マゾって?」
『痛いのや苦しいのが気持ちよく感じる感覚の持ち主のことだ』
「じゃあ、ガイは、マゾなのか。アトロポスに前髪チョッキンされてパッツンにされたりしても、ラケシス姉(ねえ)とクロト姉の罠に毎回引っかかっても俺の部屋に来ようとしてるのも、マゾだからか」
『そうそう。痛い目に合うのが大好きなのさ。あの男は』
 無邪気に笑うルークに、ガイがマゾな変態だと教えていく人修羅。
 運命の糸を扱うという伝承を持つ鬼女姉妹は、それぞれ強力な悪魔であるし、あの性格だからガイを甚振ってくれるだろうということで人修羅に呼ばれたのだ。彼女たちは、屋敷の白光騎士団が男で構成されて中に、万が一男では対処できない敵が現れた時に備えての伏兵として普段はルーク専属の高級メイド、実体は女兵士として動いている。
 念のため言っておくが、ビャッコも鬼女姉妹もみんな悪魔としての姿は隠しています。
 ビャッコは、白い虎。鬼女姉妹は、美しい人間の三姉妹の姿である。なのでビャッコはともかく、鬼女姉妹はその美しさから屋敷の男達(クリムゾンとラムダスとペール除く)からは憧れの的になっている。
 そんな姉妹に甚振られるガイは、ある意味で嫉妬の的になっていた。
 ガイがそれでもめげず、ルークに近寄ろうとするため、他のメイド達は、本当にガイがマゾだと思うようになり、評判がた落ち、周りからの視線に耐えられなくなってきたのか、仕事が疎かになってきて、給料も下げられ、ルークから遠ざけられた場所に移動させられた。
 そのことを不服に思い、ガイがルーク暗殺を決行した際には、悪魔の姿を解いたビャッコと運命の三姉妹が立ちはだかり、呆気なく殺された。
 遺体は、ビャッコが食べてしまい、痕跡すら残されたなかったため、ガイは行方不明扱いとなり、だが誰も彼を心配せず、唯一ペールだけがその身を案じ、やがて彼のもとに血塗れのガイの剣が送られたことからガイがすでに死んだと判断したペールは、ファブレの屋敷から去った。その後の行方は分からない。




***




 ルークがやがて、人間の年齢で17歳を迎えた。
 ルークは、若干の…身長の問題はあれど立派に育った。
 成長に少し不安があるのは、半人半魔だからだろうか。
 17歳。この年齢の年は、例の預言の年である。
 ルークがアグゼリュスでアグゼリュスを崩落させ、死ぬという内容だ。
 だがそんなこと許すはずがない。
 ルークが王位継承者である以上、キムラスカ上層部は、うるさいダアト、特にモースからの抗議を追っ払った。
 終いには、教団への献金を絶つと脅し、ダアトの経済状況を案じたモース以外の教団員達は、キムラスカに預言を強要するのをやめようと言い出した。
 それは、預言を生活に浸透させていったローレライ教団において、大きな波紋を呼んだ。
 そこでモースは、イオンに直接キムラスカに進言させようと思い、わざとイオンをダアトからの使者として送り込むことを決行。
 アスラン率いる和平の使者と合流させた。
 アスランは、教団の決定とはいえ最高指導者のイオンがいることにアスランはいい顔をしなかったが、護衛としてつけられたジェイドは手厚く迎えた。
 またイオンの護衛としてモースにつけられたアニスは、アスランに言い寄り、アスランの教団への不信を高める結果となった。
「これもあなたの計算通りなのですか?」
『ああ、教団もこれで無事ではすまないだろうな』
 音もなく、だれにも諭されずタルタロスに侵入した人修羅に、アスランが話しかけ、人修羅がそう答えた。
「しかし、あんなのが護衛とは、ダアトも落ちたものですね」
『あいつは、大詠師の息がかかった人間だ。気を付けろ」
「具体的には?」
『親の借金の肩代わりをされている』
「…スパイですか」
 アスランは、眉を歪めた。
『あの娘の境遇を考えれば、多少の同情はできるが、仕事ができぬ時点で失格だ』
「なら同情の余地はありません」
 アスランは冷たく言い放った。
「どさくさに紛れて処分します」
『おまえも中々だな』
 人修羅はそう言って腕をすくめた。
 人修羅は、姿を消した。
 残されたアスランは、どこでアニスを始末するから思案した。


 一方、ファブレの屋敷に美しい女性の歌が響き渡った。
 その歌を聞くと強烈な眠気と痛みに襲われ、騎士団やメイド達が次々にバタバタと倒れた。
 歌いながら中庭に侵入したティアという少女に、ビャッコが飛び掛かった。
 突然の白い虎の出現に驚いたティアは、なんとか避けてナイフを投げようとしたが、その背後から強烈な殴打を受け、倒れた。
『ヤレヤレですわ』
 ラケシスが肩をすくめながら言った。
 クロトが倒れた人間達の回復に回り、アトロポスがティアを引きずって行って、拷問部屋に繋いだ。

「私は、兄さんを狙っただけよ!」

「兄さんってだぁれ?」
 アトロポスがチョキチョキと鋏を見せながら聞いた。
「ヴァン=グランツ…、ローレライ教団の謡将よ」
「そんな人物は来ていないわ」
「嘘よ! キムラスカのファブレの屋敷に行くって聞いたのよ!」
「そいつなら、出禁になってるわよ?」
 ラケシスがやってきて言った。
「あらあら、もしかして、あのお髭の方? だったら無駄足だったわね。彼しつこいから牢屋に放り込まれてるわよ。まあすぐに出されて今頃教団に帰っていることでしょうね」
「そんな…」
 ティアは、ワナワナとした。
「どういうつもりでファブレの屋敷に侵入したのかは分からないけれど、あなたの罪は、決して軽くはなくってよ?」
「侵入しただけで罪ですって…。私はただ…!」
「あれだけの被害者を出して白を切るつもりかしら?」
「被害者だなんて…、ただ眠らせただけじゃない!」
「あなた、譜歌の危険性をご存じなくて?」
「きけんせい?」
「あらあら、そんなことでよくも音律師(クルーナー)をしていられますわね?」
「だから眠らせただけで!」
「譜歌は、魔物を殺すことができるわ」
「……あっ…」
「あら? やっと気づいたの? 遅いわねぇ。おかげで死傷者が出たかもしれないわよ…」
 アトロポスが鋏で、グイッとティアの顎を上げた。
「教団も、ただではすまないわ」
「きょ…教団は関係ない…。わ、私が独断で…」
「じゃあどうして制服を纏って来たの? どう見ても教団の命令で来たとしか思えないわよ?」
「そんな!」
「こんな阿呆に侵入を許してしまうなんて…、これでは主に叱られてしまいますわ」
「どうしましょう? この娘…」
「アトロポス。指がなくても、口はきけますわよ」
「いいの?」
「お好きになさい。ただし殺してはいけないわ」
「えっ、えっ?」
 二人の会話を聞いてティアは混乱した。
 アトロポスがクスクスと笑いながら、鋏をおもむろに…、鎖で繋がれたティアの手に…。
 そして。
 拷問部屋にティアの悲鳴が木霊した。




***




 リグレットが、ヴァンの部屋を訪ねた時、ヴァンが何かを床に叩き捨てた。
「閣下!」
「なんということを…」
 ヴァンが吐き捨てるように言った。
 ヴァンが叩き捨てた物は、小さな小箱で。
 中には、指が入っていた。
 ティアの写真と、親の形見であるペンダントと共に。
 しかしヴァンは、ティアの身を案じる暇はないとして、自身の計画を優先した。
 まず、イオンを奪う。
 そしてイオンにダアト式譜術を使わせて、パッセージリングへの扉を解除させる。そして仕掛けを施し、崩落させる準備をするためだ。
 アニスがもたらした情報に基づいてタルタロスを襲撃するまではできた。
 しかし、待っていたとばかりに的確に応戦して来たアスランにより、襲撃は失敗。イオンを奪うことはできなかった。
 なお、この騒ぎにより、アニスは、タルタロスから転落して死亡した。この時、彼女はイオンから離れていた。
 イオンを奪うため、アッシュが独断でアリエッタを使い、タルタロスが停泊していた軍港を襲い、整備士を誘拐。イオンを脅迫して人質交換を伝言した。
 イオンが独断でこれに応じてしまい、ジェイドが同調してそれに付いて行ってしまったため、アスランは、ジェイドを使えない奴だと断じてイオンを連れ戻すと同時に牢屋に放り込んだ。
 イオンが来なかったため、アッシュは、伝言通り整備士を殺した。
 これにより、アッシュは、キムラスカから指名手配された。
 タルタロスは、アスラン達を乗せ、なんとかキムラスカに来た。
 そして謁見の間にて、和平の話が進み、同時にイオンは、ティアのファブレ公爵家への襲撃事件についての責任とアッシュの軍港の襲撃事件の責任を問われた。
 これについて、イオンは、ティアとアッシュをダアトで処罰すると言ったが、キムラスカは、それでは納得できない、だからこちらに二人を引き渡すよう要求した。
 イオンは、最後まで渋ったが、最終的の折れ、二人の引き渡しについて頷いた。
 和平のための第一の仕事として、アグゼリュスへの救助があげられ、その使者としてルークが指名された。
 これまで外交の仕事をしていなかったルークの初の外交の仕事ということで、ルークは酷く動揺したが、国を預かる者としての勉学だと言い聞かされ、気持ちを新たにし、臨んだ。
 アスランと始めの顔合わせとなったが、牢から出されたジェイドが失礼極まりない行動をしたため、アスランがぶん殴るという事件があった。
「おいおい、大丈夫か、あいつ…」
「大丈夫ですよ。この程度じゃ死にませんから」
「人をゴキブリみたいに言わないでください…」
 立ち上がり眼鏡を直したジェイドが言った。
「次に失礼なことがあったら命はないぞ?」
「おお、怖い怖い」
 ジェイドはわざとらしくそう言った。
 ルークは、こいつ大丈夫かと…別の意味で心配になった。
 さてこれから出発だという時になって、バチカルの出入口に六神将のシンクがいたうえに、海には教団の船団が陣取っているという報告が来た。
 教団はどこまで馬鹿なんだとアスランが額を押さえ、報告に来たセシルに労われた。
 キムラスカがそれを許すわけがなく、海にいた船団は、キムラスカの海軍によって追っ払われ、シンクも多勢に無勢とあって、退散した。
 タルタロスに乗ってアグゼリュスに向かう道中、船にいつの間にか侵入していたアッシュがルークを襲撃する事件があった。
 ルークについてきていたビャッコが飛び掛かり事なきを得たが、アッシュの姿に、アスランは驚いた。
 ルークと瓜二つなのである。
 双子とかそういうレベルではないぐらいにそっくりなのだ。
 ジェイドもこれには、眉間を寄せ、何か考え込んでいた。
 ルークは、気味が悪いと吐き気を催し、部屋で休んだ。
 肝心のアッシュに逃げられてしまい、真相は不明だが、今後のことを考え、警備は厳重になった。
 やがてアグゼリュスに到着すると、そこにいたモースの指揮下にある教団兵達が襲ってきた。
 敵は多く、アスラン達でも応戦しきれなくなった時、ピクシーが現れ、凄まじい雷撃と共に敵をすべて一掃した。
『間一髪だったわね』
「ピクシー!」
『だいじょうぶ? ルーク』
「ああ、大丈夫。それより、アスラン達を…」
『分かった』
 そう言ってピクシーは、回復魔法を使って負傷したアスラン達を治療した。
「ほう、これはこれは…」
『ちょっとぉ、近づかないでよ』
 ジェイドが物珍しそうにピクシーをジロジロと見て来たので、ピクシーは嫌がった。
「彼女はいったい何者ですか?」
『あたしは、妖精よ』
「ようせい…、絵本に描かれる妖精ですか。それはそれは…」
『なによ…』
「いえ、実物を見るのは始めてなもので」
 ジェイドはそう言いつつ、ピクシーをジロジロと観察していた。
「それより、住民は?」
「今、兵に行かせています」
 ルークがアグゼリュスの住民達を心配した。
 するとアスランが行かせた兵が戻ってきて、住民達が教団の兵によってアグゼリュスの奥へ連れていかれていることが分かった。
「なんで奥に…、瘴気が満ちてるからこのままじゃ…」
「ええ、マズイです。ルーク様は、ここでお待ちください。我々が住民達を救出しに参ります」
「分かった。無事に戻ってこい」
「はい!」
 アスランは、兵達を連れてアグゼリュスの奥へ向かった。
 残ったジェイドは、他の兵とルークの護衛にあたったのだが、チラリチラリと、ルークを見た。
「…なんだよ?」
「いいえ…、少し気になることが…」
「なんだ?」
「申し訳ありません。まだ確証が得られないもので」
「なんだよ、それ…」
「アッシュを捕えることができれば、確証は得られると思うのですが…」
「アッシュを?」
「なぜあなたにそっくりなのか、その理由が分かると思います」
「他人の空似にしちゃ、そっくりすぎるもんな…」
 ルークは、アッシュの顔を思い出し、顔を少し歪めた。
 その時、地震が起こった。

「ちくしょう! 遅かったか!」

「アッシュ!?」
「な、なぜてめぇがここにいやがる!?」
 なぜかアッシュがルークがアグゼリュスの外にいることに驚いていた。
 そうしている間にも地震は激しくなっていく。
「アスラン達が!」
「ダメです、間に合わない!」
「人修羅…!」
 ジェイドが止める中、ルークは祈った。

『ルーク。力を使え』

「えっ?」
『おまえならできる』
「…分かった!」
「ルーク様?」
 ルークは、言われた通り念じた。
 すると、眩しい光が発生し、アスラン達と、アグゼリュスの住民達が出現した。
「…これは…いったい…?」
「アスラン!」
「ルーク様…、まさかあなたが?」
「これは…、まさか超振動? いや、違う…、てめぇ、一体何をしやがたった!?」
「おおっと、それどころではありませんでしたね。大人しくお縄に着きなさい」
 ジェイドが槍を出してアッシュに突きつけた。
 やがて、地震が止まった。
「とまった?」
「俺がちょっとの間だけ止めてる! 急いで逃げよう!」
 ルークが青い顔をして叫んだ。
 アスラン達は、住民をタルタロスに避難させ、自分達も乗り、急いでアグゼリュスから退避した。
 タルタロスが離れると同時に、アグゼリュスは、崩落した。

「では、話を聞きましょうか?」

 縄で縛られたアッシュにジェイドが聞いた。
「黙っていては分かりませんよ?」
「あの屑はどうした?」
「くず? まさかルーク様のことではないだろうな?」
 アスランがアッシュを睨みながら言った。
「ルーク? ハッ、あいつが? あの劣化屑を様付で呼ぶか?」
「聞き捨てなりませんね。殺されたいのですか?」
「あいつと俺、どうしてこんなにもそっくりなのか分かるか?」
「もしや、あなたは…」
 ジェイドが言うと、アッシュはにやりと笑った。
「そうだよ。あいつは、俺の劣化レプリカだ」
「つまりあなたが、被験者だと?」
「どういうことだ、ジェイド」
「彼とルークは、被験者とレプリカの関係だということです」
「証拠は?」
「俺には記憶がある。あの野郎にはないはずだ」
「それでは証拠にはならない。おまえが嘘を言っている可能性もある」
「なんだと!」
「ジェイド。どうすれば、こいつの真偽を確かめられる?」
「研究所かどこかで、音素の数値を調べればわかるでしょう」
「なら…」
 アスランは、牢屋にアッシュを閉じ込め、タルタロスを一度マルクトへ移動させてアグゼリュスの住民達を降ろし、それからタルタロスをキムラスカへ向かわせた。
 キムラスカ上層部の許可をもらい、ベルゲンドにアッシュを移送させて、調べてもらった。
 結果…。

「音素数値がまったくの同じ…。」

 通常ならありえないことだった。
 だが…。
「おまえの言葉は確かだった」
「そうだろう」
 アッシュが勝ち誇ったような顔をした。
 だがしかしっと、アスランは続けた。
「すべてではない」
「どういうことだ?」
「むしろ、アッシュ、おまえの方が…、レプリカだった」
「なっ……、嘘を吐くな!!」
 アッシュが絶叫した。
 アスランは、研究員が持ってきた書類を見せた。
 そこには、ルークが被験者で、アッシュがレプリカだというデータが記入されていた。
「キムラスカの最先端を誇るベルゲンドの確かな調べだ。これで納得しないのなら、死ねば分かる。ジェイドが言うには、レプリカは、死ぬと音素となって跡形も残らないそうだから」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ!!!!」
 アッシュは、頭を抱えて叫び続けた。
 やがてその叫びも小さくなっていき、顔か出るもの全部出しながら、ブツブツとアッシュは、言葉を呟きながら廃人のようなった。
「ジェイド…。これはおまえの責任だぞ」
 フォミクリーの技術の開発者であるジェイドを、アスランは睨んだ。
「彼を作ったのは私ではありません」
「それでも技術の漏出を防がなかったうえに、完璧な完全同位体を作り上げるほど技術を向上させたのは、他ならぬお前だ。アッシュを作った人間が他にいるのは分かっているが、それを行うだけの技術を作り上げた者としての責任はある」
 アスランの言葉に、ジェイドは黙った。
「…この話は、後にしよう。まずは、なぜアグゼリュスが崩落したのか。その報告を兼ねてマルクトへ帰還する」
 アスランは、長く息を吐き、そう言った。


 その後、ルークをキムラスカで降ろし、それからマルクトへ帰還したアスラン達は、アグゼリュスの避難活動の結果と崩落の報告をした。
「やはり崩落したか…」
「やはりとは?」
 ピオニーが重い溜息を吐いて言ったので、アスランが反応した。
「前々から調査はしていたが、この大地は、外郭大地といい、つまり音素の力で浮かされた状態にあるらしい。それが限界がきて、崩落しようとしているんだ」
「そんな! ハッ! だから世界が滅ぶと…」
 人修羅が言っていたのはこのことかと、アスランがハッとした。
 ピオニーは頷いた。
「休む暇もないが、これから、お前達には、外郭大地の調査、及び、崩落を防ぐために動いてもらう!」
「はっ!」
 アスランは敬礼した。
 ジェイドは、セフィロトツリーの調査と崩落の危険のある土地の調査のため、現場に駆り出されることになった。


 一方、アグゼリュスの崩落を理由に、モース達がキムラスカにマルクトとの戦争を持ち掛けたが、裏でマルクトと連携しているキムラスカは、キムラスカが敗北するという出来レースな戦争の芝居をするべく、一見するとモース達の思惑に乗ったように見せかけた。
 結果、モース達は、焦り、マルクトの皇帝ピオニーを暗殺しようとしたが、当然のことながら失敗。
 モース達は、捕えられ、芋づる式でモースを裏で利用していたヴァン達も見つかり、彼らに拉致されていたイオンも見つかるなどした。
 イオンの証言で、各地のセフィロトの封印を解いてヴァン達が何か仕掛けを施したことが分かり、また六神将を拷問、自白させてレプリカ大地の計画を吐かせた結果、ユリアの血筋でないと操作できない仕掛けを解くため、ヴァンとティアがかり出された。
 ヴァンは、すっかり廃人のようになり、指を失ったティアを見て激昂したが、今まで助けず放っておいたことを指摘されて押し黙った。
 アスラン達の活躍により、無事に外郭大地は、降下し、ジェイドの案によって地核の振動を止める装置としてタルタロスを利用するなどして、崩落とその後にある瘴気による破滅の危機は去った。




***




 満月の夜。
「人修羅…、世界は大丈夫なのかな?」
『大丈夫さ。アスラン達ががんばってくれた』
 人修羅に後ろから抱っこされたルークが心配そうに言い、人修羅がそう答えた。
「もう大丈夫なのか?」
『ああ…、もちろんだ』
 人修羅の手がさらさらとしたルークの髪をすいた。
「俺…、あんな力があったんだな」
『ルークは、俺の最高傑作だから、あれだけのことができて当り前だ』
「半分悪魔だから?」
『俺も昔は、そうだった』
「じゃあ、もっと強くなれるのか?」
『強くなりたいのかい?』
「強くなって…、もっとたくさん守れるようなりたい」
『いい心がけだ』
 人修羅は、ルークの頭を撫でた。
「もう、子ども扱いするなよ。もう17なんだから」
『俺にとっては、いつまでも可愛いルークさ』
「もう…」
 不服そうに言いつつ、ルークの頬は染まっていた。
『さあ、ルーク。今夜も…』
「俺の体…、まだ安定しないのか?」
『俺とのコレは、イヤ?』
「違う。人修羅に迷惑かけないで、早く独り立ちできるようになりたいから…」
『……そうか』
「あ、でも人修羅から離れたいからじゃないんだぜ? 俺はこれからキムラスカを支えなきゃいけないんだ。だから早く大人にならなくちゃ…」
『分かってる。俺がルークを離したくないからいけないんだ』
 人修羅は、ルークをベットに押し倒した。
「人修羅…。俺は、あんたのこと、愛してるから…」
『俺も愛してる』
 そうして夜は更けていった。


 ヴァンとティアは、音素に含まれる瘴気により、中毒を起こし、やがて死んでいった。
 ジェイドは、封じた瘴気を中和する方法を開発するために、全てを費やし、過労死した。

 世界は、やがてキムラスカ王となったルークと、マルクトのピオニーにより、平和になった。






あとがき

 めっちゃ、お待たせしました。

 ジェイドへの断罪が薄いのは、もうデフォルトですね。


 志貴様、このような出来になりました。









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