Spicaの六花様から相互リンク記念で戴きました!!














   俺のペット





















 

 暇だ。

 とことん暇だ。

 ケセドニアにある宿屋の一室でぼんやりと窓の外を眺めているルークは、持て余している時間を勿体無い

と思いつつ、やる事のない今の状況に苛立っていた。

 ティアとアニス、そしてナタリアは足りない道具を揃えに買い物へ出かけ、ジェイドとガイはギルドの長

であるアスターに何やら用があるとかで宿へ着くなりさっさと彼の屋敷へと行ってしまった。

 今、この宿に居るのはやる事のないルークと、長旅の疲れでダウンして別の部屋で休んでいるイオンのみ。

 今日は、ここで一泊する予定だ。

 つまり、それまでルークにはする事がない、という訳である。 

 毎日毎日、世界中あちらこちらを飛び回り多忙な日々を送っているルークにとって、たまには休息も必要

なのだろうが、いざ時間が出来てしまうと、どう過ごしていいのか判らないから困ってしまう。




「仕方ない。その辺を見て回るか……」

 ルークはおもむろにベットから立ち上がる。

 宿に引きこもっていても状況が変わるとは思えない。

 ならば、何か面白い事が起こるかもしれない可能性のある行動でも取ってみるか。 

 ルークは外していた剣を再び腰に差し、ドアを開けた。





 キィ。


 

 立て付けの悪くなりつつあるドアが軋みの音をたてる。

 それを合図にするかのように、足元でもぞりと動く気配が一つ。



 
「出かける。ついでだ。お前も連れて行ってやるよ」

 ルークがそう言うと、部屋の前でちょこんと座り込んでいた赤毛の、アッシュと名乗った男はぱっと立ち

上がり心なしか目を輝かせる。

 嬉しそうに、何かを期待するかのように見つめてくるアッシュの視線を鬱陶しいと感じながらルークは無

言で一階へと続く階段をスタスタと降りていく。


 バチカルの宿とは違い、かなり貧相で古臭い造りであるこの宿屋は意外にも人の出入りが多かった。

 カウンターでは部屋を取っている客が並び、後方にも数人が屯っている。

 おそらく、ここが二国間の物資の流通地点だということも多いに関係しているのだろう。

 ルークは客で込み合う中をぶつからない様にすらすら通りぬけ、宿屋を出る。





「暑いな」

 建物から出た瞬間、襲い来る熱風にルークは目を細める。

 さんさんと降り注ぐ太陽の日差しが肌を焼き、不快ではないが長時間出歩くのにはあまり有り難くない天

候だと思う。

 ケセドニアは砂漠に面した街だ。
 
 街の入口には飾り程度の緑は存在するものの背後に広がる広大な砂漠が容赦なく熱を発し、ケセドニアを

包み込む。




 とりあえず、歩こう。



 外に出たのはいいが、行く場所もやる事もないルークはとりあえずブラブラと街を見て回ることにした。

 キムラスカとマルクト、両国へ渡る物資が数多く横行する商人の街であるケセドニアは、活気に満ちている。

 いたる所で店を開いている街の人たちが大声を上げ、客たちが談笑しながら買い物をしている。

 いつ来ても、賑やかな街だ。







「あれ〜ルークじゃん♪」

 ふと目に付いた武器屋で並べられていた剣を眺めていたルークは、突然後ろから名を呼ばれ剣を手に持ったま

ま振り返る。


「あっ!」


 と。

 ルークの真後ろでぽつんと佇んでいたアッシュに剣の切っ先が見事に向けられて、彼は驚いて跳び退く。


「ああ、そう言えばいたなお前」

 忘れてた。


 持っていた剣を戻しながら、臆面もなく言う。

 その口調に悪びれた色は微塵もない。

 その言葉を受けてしゅんとなるアッシュを完璧無視でやり過ごし、声を掛けてきた相手、アニスに向き直る。

 もちろんティアとナタリアも傍らに居る。




「相変わらずヒドイ扱いだね…」

 ルークから無碍に扱われているにも関わらず、いつも付かず離れずの距離を保っているアシュに、同情めい

た視線を注ぐアニス。


 

「こんな所で何やってんだ?」

「うわっ。会話をする気にもならないんだ……」

「そもそもする必要性がない」

「ルーク、それではあまりにもアッシュが不憫ですわ」

「案外、そうでもないんじゃないかしら?」

「そうそうティアの言う通りだよ! アッシュってばルークに踏まれていつも喜んでるじゃん!」

 うんうん、と頷いてティアに同意するアニス。
 


『…………………』






「自分で言っておきながらアレだけど、ドン引き……」


 訪れた沈黙に耐えかねて、アニスがぽつりと呟く。


「そ、そんなことよりわたくしたちこれから食事に行く所なんですの。ルークも一緒にいかがですか?」

「あ! そうだよっ。一緒に行こう!」

 場の空気を取り繕うように話題を変えるナタリアに、ナイスアイディア、とばかりにアニスが乗るとルークの

返答も聞かず腕を取り、行こう行こう、と歩き出す。


「ったく……」

 腕を引っぱられ否応なく足を動かさざる負えなくなったルークはヤレヤレ、と諦めの吐息を零し、はしゃぎ

ながら歩を進めるアニスに大人しく従った。






















  ****              ****














 ケセドニアに立ち寄るたびに何度か足を運んだ事のある店に半ば強引にドアを開けさせられると、中はすで

に客でごった返していた。


 丁度、昼食時と重なっているからだろう。

「あっちゃ〜。席空いてるかなぁ……」

「予想外に多いですわね……」

「改めて来た方がいいのかしら……」

 忙しそうに飛び回るウエイトレスや込み合う店内を眺め、口々に呟くのはアニス、ナタリア、ティアだ。

 これではゆっくり食事出来るか判らない。

 どうしよう。

 出直すか、とそういう雰囲気になりつつある三人に、しかし周囲を見渡していたルークは唇を歪め、歩き出す。


 ルーク! とハッとした様子で名を呼ぶ三人だが、その先にある物を見つけ慌てて追いかけて来る。





「よぉ。」

 空いている席に座り、声を掛けた。


「ルーク」

「おや。貴方達もここで食事ですか?」

 向かい合い食事を共にしていたガイとジェイドは、突然現れたルークにさしたる驚きも示さずに視線を向ける。

「そうなんですよ大佐ぁ。色々お買い物してたらお腹空いちゃって宿に帰る前に食事しようって事になって。

でもでもお店がすっごく混んでて困ってたんですぅ」

「あはは。なら丁度よかったな」

 隣りの席の空いた椅子を横取りし自分の席を確保し座り込むアニスに、ガイが笑う。

 それを合図にするかのように、ナタリアとティアも席に着き、最期にアッシュが座る。

 もちろん、ルークの隣りだ。

「すっかり金魚のフンですねぇ」

 しら〜と温度の低い視線をアッシュに送り、ジェイドが言う。 

「うるせぇ。死霊使いがっ!」

「お前がうるせぇよ」

「……………………」

 怒気を含ませた声色で言い返すアッシュにルークが睨みを効かせると、彼は嘘のように沈黙する。

「……すっかり手懐けちまったな……」

 ぼそり、と考え込むようにガイは呟く。

 その表情は落胆そのもので、こんな奴が仇の息子なのか、と失望感のような物が漂っている。
 




「そんな事より。料理注文しちゃうよ。

すいませーん。デザート意外の料理じゃんじゃん持ってきて下さぁぁいv」

 アッシュの事など初めから眼中にないアニスは、テーブルの片付けをしていたウエイトレスに向け、語尾

にハートマークを付けながら注文をした。

 一瞬、ぴたりと動きを止めた後、クエスチョンマーク…もとい戸惑いを浮かべるウエイトレス。

 空耳とでも思ったのだろうか。

 アニスはしょうがないなぁ、と肩を竦め、全制覇すんだよ持ってこいよオラ、先程より強い口調で足りな

い部分を付け足す。

 可愛らしく話しかけてきた時とは違い、ドスの加わった二度目の言葉のあまりのギャップ差にウエイトレス

はひっ! と小さく悲鳴を上げる。



「ドスを効かすなアニス。…あ、俺は桃のパンナコッタにパンケーキ、フルーツタルトにチョコマフィン。

シュークリームとメロンソーダ」

 メニューを眺めながらつらつらとデザートを注文するのは、ルークだ。

「喧嘩売ってるでしょ、あんた」

 あたしダイエット中なんだけど、と睨み付けてくるアニスに、俺は育ち盛りなんだ、としらっと返すルーク。

「私はコーヒーを」

「わたくしには紅茶をお願いします」

「あ、ああえっと……畏まりました」

 四方から次々と述べられる注文を聞き逃さないように慌ててウエイトレスはノートに書き連ね、ふと今だ

注文をしていない人物に気が付いて声を掛けた。




「そちらのお客様はいかがいたしますか?」

 にこり、と営業スマイルを浮べアッシュに問う。

「ふん。そうだな俺は…」

「水でいい。犬にやるような平らな皿に張った水で」

「………は?」

「コレは俺のペットだからな」

「おやおや。たしかここはペットの持ち込み禁止ですよ?」

「ツッ込む所はそこかよ旦那……」

 下った眼鏡の位置を戻しつつ言うジェイドに、ガイは溜め息一つ。

「まぁ。アッシュはルークのペットだったんですのね……」

 気付きませんでしたわ、と驚いたような感心したような、そんな調子で頷くナタリア。

「出来の悪いペットだけどな」

「ペットは主人に似る、といいますよ?」

「類は友を呼ぶって知ってるか?」

 いつものように嫌味を口にするジェイドに、ルークも負けじと返すのだった。









「とりあえず、注文は以上でいいわ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出したメンバーに軽い頭の痛みを感じつつ、その遣り取りに免疫のない、硬直してい

たウエイトレスにティアは命じ下らせた。


 どうか平穏に食事が摂れます様に、と去って行くウエイトレスの背中を眺めながら願うティアだが、それ

が激しく困難なことは今までの経験から痛いほど学んでいる。

 この、良くも悪くも個性的なメンバーが集まると、たいてい予想外な出来事が起きてしまうのだ。















 ガシャーーン。




 盛大に皿の割れる音が響き、どすん、と鈍い音がした。

 はっと音のした方を見れば、椅子から転げ落ち床の上に倒れているアッシュが目に付いた。


「てめー! ペットの分際で何俺様のシュークリーム食おうとしてんだよっ!」



 どげしっ!


「ぐふっ!」

 突然椅子の椅子の足を蹴飛ばされ、椅子もろとも床に這いつくばっている隙だらけのアッシュの腹に、

ルークのブーツの底がめり込んだ。


 しかも鳩尾に、だ。



 うわ、痛そうっ!


 と言うのはアニスだ。


「テメーは水だけ飲んでろ!」


 グリグリグリグリ。


 一度踏みつけただけでは気が済まず、ルークはぐっと力を加え足首を左右に捻りながらさらなる制裁を与

えるとその衝撃でアッシュの身体がビクビク動く。



「あっあぁぁぁぁ!」

 アッシュの口から声が漏れる。

 

 だが、腹を蹴られ続けているせいか、言葉になっていない。

「ああっ? 聞こえねーよ! 被験者様よぉっ?」

 イライラ。

 湧き上がる苛立ちに舌打ちし、ルークは捻り潰し続ける。


「―――――――――――――――――――――っ。もっ………」


「あっ?」



「もっと踏んで下さいっ!」

 とろん、と潤んだ瞳が輝いた。










 ビシッ!











 空気が凍るというのは、こういう事なのか。

 一瞬で場の温度が凍結し、時が止まる。

 それはルークたちはおろか店全体に伝わって、あちらこちらで上がっていた和やかな談笑が吹き飛んで居

たたまれないような、戸惑うような沈痛な空気が出来上がりそっと席を離れる者や興味をそそられつつも、

関わってはダメだ、とあからさまに視線を逸らす者が現れる。







「最っ悪。」

「人として有るまじき言動だわ」

「彼を野放しにしていたのは失敗でしたね」

「こんな奴に俺は……」

「…………。アッシュ…………」

 



 
 心底イヤそうに顔を顰めるアニスとティア。

 涼やかな表情を浮かべつつ、赤い瞳がマジな大佐。

 がっくりと項垂れて、米神を押さえるガイ。

 哀れみの籠もった視線を注ぐナタリア。








「へぇ? 前々から思ってたけどやっぱお前ってソッチ?」

 ルークの口許が半月に歪み、翠の双眸がスゥと細められた。

 そしてそれを確認するかのように、




 ドカッ。ゲシッ!




「ああっ//」

「気持ちいいってか! つくづく変態だなっ!」

 頬を赤らませ、一人昂揚しているアッシュに、ルークの罵声が響く。

 そんなルークの言葉一つ一つに、彼は奮い立つのだ。

「く、屑と呼んで下さいっ!」

「お前は黙ってろ。俺に話しかけるなこの屑っ!」

「!!!」


 グリグリグリグリ。

 もはや靴の下に存在する虫けらのように、ルークはアッシュを踏み、時には蹴る。 















「SM劇場……」




 果たして、この言葉は誰が零した物なのか。

 店のほぼ中央で繰り広げられる主人とペットの一幕に、どこからともなくそんな言葉が送られた。 

























@@あとがき@@
大変遅くなりました。
相互リンク記念小説です。

初のSM小説だったりするのであまり自信がないのですが、リク内容に近付けましたでしょうか?
出来上がってみれば、あまりアスが喋ってなかったり仲間のドン引き具合が浅かったりルクが意外に女王様っ
ぽくなかったりイオン様がいなかったり、色々反省する点は多いのですがビギナーなのでお許し下さい。
こんな物でよろしければruru様のみお持ち帰り可です。







***ruru***
 六花様、ありがとうございます!!
 確認次第さっそく飾らせていただきました。
 画面の前でバンバン膝を叩いて爆笑しちゃいましたよ!! ペットか〜、まさにその通りすぎるアッシュが最高でした。
 ついつい壁紙までハート(爆)にしてしまいましたv

 素敵な黒ルーク小説、ありがとうございました!!





戻る