プロローグ  旅立ち




















 人類の叡智を結集して作り上げたブレーン・コンピュータと、そこから生み出された最終兵器リーヴ。

 自我に目覚めたブレーン・コンピュータと、リーヴの手により人類は滅ぼされ、リーヴを創造主とする機械人類セレノイドの時代が到来した。

 彼女…は、その時代に生まれたセレノイドの一人だった。

 しかし運命は彼女を翻弄した。

 ある日突然強大な力に覚醒したは、自分が住んでいた居住区とそこにいた住人の大半を破壊し、死にたらしめた。

 突然手にした力を制御できないはその身を拘束され、彼女が暮らす国を統括しているマザーのもとへ連れてこられた。

 様々な検査の結果、彼女はリーヴから生み出された四人のマザーに匹敵する力があることが分かった。

 はマザーから、その力を国…ひいては世界とリーヴのために使えと命じられ、力の制御をするための訓練を受けることになる。

 …けれど運命は彼女を更に翻弄した。

 力を制御することができるようになり始めるにつれ、彼女は全てをコンピュータに管理されて生まれてくる機械人間にはけして似つかわしくなく、かつ決して叶えることができない感情と思いを彼女の中に芽生えさせた。

 それは…いわゆる母性という感情だった。

 女性の形に模られて生まれてきただったが、母体をコンピュータとするセレノイドには生殖能力がない。

 ゆえに彼女には子をなすことは永遠に叶わないのである。

 無論はそのことを知っている。けれど芽生えた感情を捨て切ることができなかった。やがてその思いは今のこの時代への疑問にもつながり、彼女の意思はセレノイドにあるまじきものへと変化していった。

 だから…彼女はマザーの怒りを買った。

 異物とみなされ、命を奪われそうになったが、彼女が手にした強大な力が彼女を生かした。

 逃走する最中、このままでは後がないと判断したは、決死の覚悟でセレノイド、マザーやリーヴと敵対する反逆組織レオと間接的なコンタクトを取ることに成功し、約束した合流場所へ急いだ。

 そしてついにレオに所属するアッシュ・ラミィと出会いを果たしたが…。


 …運命は彼女をどこまでも翻弄した。


 アッシュに出会うことで気が抜けてしまったは、背後に迫っていた追手に不意をつかれてしまったのである。

!!」

 アッシュが自分の名前を呼んでいるけれど、にはもう答える力はなかった。

 真っ赤に染まった視界も、胸に開けられた空洞の痛みも、何もかもが遠かった。

 あるのは、ただ、深い絶望とも悲しみともつかない感情、そして疑問。




 私は、間違っていたのですか?




 母親というものに憧れ、相手を抱き締めて慈しみたいと願いも、そのために戦いたいという思うも、全て間違いだったのだろうか…?




 私は、機械人間。

 愚かな出来損ない…。

 例え時代の創始者に罵られようと、この命を絶たれようと、消えないこの思いを抱いたまま壊された…。




































『……………今、一度の生を…』




















 意識が闇に沈んだその時、不思議な声が聞こえた。






















愚かで悲しき人形に、答えを』



















 何と言ったのかは、はっきりとは分からなかったが、声が聞こえた後、の視界は爆発するような光に溢れた。


































『……?』

 は気がついた。

『私は…死んだはずでは?』

 けれど胸に開けられた空洞はなく、痛みもない。
 手足だってフカフカの…。

 フカフカ?

 は恐る恐る自分の姿形を確認した。


『? …??? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−!!!!!!!!』


 声にならない叫びとは、こういうことを言うのだろう。

 目覚めたは、何故か熊のぬいぐるみ(もちろん一般的なテディベアサイズの)の姿をしていた。
 手足を動かしてみれば、フカフカの短い手足が思った通りに動く、指がないから指を動かすことはできないが、この熊のぬいぐるみの姿形が今の自分の姿なのだというのを認識するには十分だった。



『……どうして?』


 けれど、その疑問に対する答えは返ってこない。




 彼女の冒険は、こうして始まったのだった。






あとがき

 女性主人公その4設定話プロローグ。
 彼女は様々な世界に飛ばされては、そこにいるキャラ達と交流していき、最終的に元の世界に戻る予定です。
 彼女にこんな旅をさせた謎の声の正体は不明です。

 主人公設定にもありますが、熊のぬいぐるみの姿から元の姿に戻ることはできます。でも今の時点ではそれに気づいてません。すぐ分かりますが。






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